Int.18:ブルー・レイン/少年と金狼、二匹の獣は決戦の舞台へ①
――――そして、迎えた翌日。一真は今日もまた、純白の相棒と共に決闘の地に立っていた。
燦々と輝いているはずの太陽を暗雲が覆い、降り注ぐ雨が大地を、そして純白の装甲を激しく打ち付け、濡らす。絶え間なく打ち付ける雨を滴らせる対艦刀を片手に、≪閃電≫・タイプFの背後では一機の巨人――JS-1L≪
「……勝負は付いたぜ。まだ、やろうってのか?」
その≪神武・改≫の方へ振り返りながら、決闘の場に於いては珍しいほどに落ち着いた声色で一真が呼びかける。
『まだ、終わってない……!』
しかし、E組の代表だというパイロットの男の闘志は未だに潰えてはおらず。背部マウントに懸架した93式20mm突撃機関砲を残った左腕で引っ張り出すと、ソイツの砲口を一真の≪閃電≫に向ける。
「いいね、そうこなくっちゃな……。でなけりゃ、面白くねえ――――!」
『ほざけよ! まだ終わっちゃいねえっ!!』
≪神武・改≫はスラスタを逆噴射させ真後ろに飛び、一気に距離を取りながら左腕の突撃機関砲を一真に向けてブッ放してくる。
「ああ、そうさ! 最後までやってみなきゃ、分かんねえよなァ――――ッ!!」
一真もまた、両手で柄を握る対艦刀を下段に構えると、背部メイン・スラスタを最大出力で吹かし地を蹴り、逃げる≪神武・改≫に向かって滑空するように追撃を敢行した。
『ええい、付いてくるんじゃないよッ!』
「出来ねぇ相談だなァァァッ!!」
滑るように着地した≪神武・改≫が≪閃電≫を撃ち落とそうと突撃機関砲を撃ちまくるが、しかし一真は横方向にサブ・スラスタを――――特殊機構"ヴァリアブル・ブラスト"で異常なまでの推力に強化されたスラスタを短噴射し、気の狂ったような速さで左右へジグザグに動きながら巧みにそれを回避する。相対するあの男は、一真が特殊機構の封印を解くのに相応しいと思うだけの骨がある男だった。
加速度的に迫る白の機影に、しかし≪神武・改≫のパイロットはそれを叩き落とそうと必死に突撃機関砲をブッ放す。しかし豪雨のように放たれる20mmペイント砲弾は≪閃電≫の装甲に擦りもしない。
「オオオオォォォォ――――ッ!!!」
雄叫びを上げながら、一真の≪閃電≫が地面を削りながら着地する。目の前には、ガラ空きになった懐。一真は着地しながら右脚のもう一歩を大きく踏み込めば、下段に構えていた対艦刀を閃かせた。
『しまっ――――!?』
斜め左上方に振り上げる、逆袈裟からの鋭い一撃。下からモロに対艦刀の刀身に殴りつけられた≪神武・改≫が左手に持っていた突撃機関砲がその衝撃でマニピュレータから滑り、そのまま斬り上げる軌道に沿い
――――しかし、一真の勢いは止まらない。
「これで――――
雄叫びを上げ、一真は振り上げた対艦刀の、その返す刃で≪神武・改≫の胴体を横一文字に一閃した。
「…………」
一瞬の静寂。右腕一本で後方に振り上げた対艦刀の強化炭素複合繊維の刃に、再び雨が滴り始める。
『――シエラ1、撃墜判定。ヴィクター2は健在。
――――勝者、弥勒寺一真』
管制センターからのそんな宣告が無線に響けば、≪神武・改≫のパイロットは『負けた……』と悔しげな、しかし何処かさっぱりとした声でひとりごちる。
「ヘッ……強えじゃねーか、お前。楽しかったぜ、お前とのタイマンはよ…………」
崩れ落ちた≪神武・改≫を一瞥しながら一真は至極嬉しげな顔で言うと、振り上げた刃を払い、それを左腰のマウントへと収める。
(これで、決勝進出――――)
目の前の≪神武・改≫を倒したことで、一真は準決勝を勝ち抜いたことになった。後に残るのはただ一つ、決勝戦のみ。
(楽しみにしてるぜ、エマ)
そんな最後のステージへと確実に登り詰めてくるであろう彼女の――――エマ・アジャーニの顔を脳裏に思い浮かべてしまえば、一真は浮かぶ不敵な笑みを隠せなかった。
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