第26話 適性がない

 そして朝。

 ウサギを狩ってくると言って、早朝に出かけたミノルを見送って、コイルは魔動ノコギリ片手に素材用のデルフの木へと向かった。


 ドアを作るなら、板が必要だ。


「ふっふっふー」


 相変わらずの謎テンションでノコギリのスイッチを入れるコイル。

 板を作るため、まずは一抱えもある1段目の枝を落とした。

 前に、二段目を丸太に使ったやつだ。

 落とした丸太を、1メル程度の扱いやすい長さに切って立てる。いざ、真っ二つに……



「……ん?」


 丸太を縦に半分に切るつもりだったが、斜めになってしまった。


「……気を取り直して、もう一度!やぁ!」


 やはり、徐々に斜めになっていって地面から30センチメルくらいで切り落としてしまう。


「くっ」

「はーっ、たぁ!」

「うー、やあ」


 いろんな掛け声で何度か試したが、どうしてもまっすぐ切れない。



 薪にしか使えなさそうな木っ端を量産して、コイルはその場にへたり込んだ。

 其処へ宣言通りウサギを下げて、ミノルが帰ってきた。


「どうした?コイル。これは何を?」


「……板」


「ん?」


「板、作ろうと思ったんだけど、できないんだけど!」


 ミノルは笑いながらウサギを捌いた。


「まあ、ノコギリで板を作るのは難しそうだし、ドアは買ってきたらどうだ?というか、家の外壁は大工に頼むんだろう?ドアも一緒に作ってもらえばいいさ」


「倉庫くらい、自分で作ろうと思ったのに……」


「いじけるな。壁はきれいに出来てるぞ。コイルは雑なんだから、細かい仕事はプロに任せて」


「ぶーーー」


「ははは。そうだ、メルの木買ってただろう?早く植えないと枯れるぞ」


「あ、そうだった。……仕方ない。板作りはいずれリベンジを……」


 ブツブツと文句を言いながら、コイルはメルの木を1メル間隔に植える単純作業に取り掛かった。


 今回買ってきたメルの木は50本。開拓用の杭と杭の間は60メルだから、杭の間ひとつ分にもまだ足りない。メルの木は安いし細いが、それでもメルの木だけでも何回か往復しないといけないかあ。と、うんざりした。


 とりあえず、今ある50本を、だいたい1メル間隔に、コイルの感性で植えた。

 ミノルが焼き肉の準備をしながら、呆れている。


「コイル、家は絶対自分で作るなよ。お前の適性は、きっと他にあるから」


「くっ」

 自分が植えた、間隔がばらばらのメルの木の生垣を見て、何も言い返せないコイルだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る