第89話 頼りGuy
オレはリタとのデート中に呼び出された。
すんごいタイミングで、演劇ならクライマックス辺りになるだろうか。
目の前には顔を片手で塞ぎ、目を細めてケタケタ笑う猫がいる。
こんのモコ野郎が、せっかくのリタとの……
リタとの……
あれ、オレ何やってんだ?
そもそも何でデートしてんだっけ。
「お楽しみのところごめんね、稀少な毒物の検知をしたから呼んだけど。余計なお世話だったかな?」
「おぅ、さすがはモコ様だな。今回ばかりは本気で感謝するぞ」
「そこまで言ったら、リタが可哀想さ」
モコは呆れたように、鼻からンフーと盛大な溜め息を吐いた。
あの流れからいって、オレのも暴言とは言い切れんだろう。
あっという間にカタに嵌められかけたんだから。
「もう気付いてると思うけど、体内に入った毒物は対処したよ。魔術ベースのもので良かったね。植物由来の毒だとここまで楽に片付かないから気を付けて」
「いや、ほんとお前万能だな。こんな頼りになるヤツはどこにも居ないぞ」
「フフン、有能なだけじゃなく愛玩動物でもあるからね、まさにカンペキな生命!」
そのしたり顔が腹立つが、恩のある手前強いことは言えない。
その代わり肯定もしなかった。
「そんじゃ、手短に僕から二つね。先日会ったディストルだけど、彼も君と同じようにユニークな生命だよ。役割を与えられた生物さ」
「たしかオレは『定めるもの』だったな」
「そうそう、そして彼は『消し去るもの』だよ。わかりやすいでしょ?」
「これ以上無いくらいにな」
魔獣の兵士を瞬く間に消し去ったあの力。
尋常なものじゃないと思っていたが、御大層な人物だったらしい。
今後敵対しないように注意が必要だ。
モコは話を一度話を区切ると、一筋の光を呼び出した。
それは粉雪のようにフワリと宙を舞い、オレの胸元でスゥッと消えた。
この感覚、前にもあったぞ。
「おめでとう、君は【巫女の祈り】を手に入れたよ」
「この前の妙な炎はそれか?」
「そうだね、少女の祈りにしちゃドス黒い色してたけど。なんかあったの?」
「生きてりゃ色々ある。大人も子供もだ」
「これは物に宿った感情や想いを具現化できる加護なんだけど……」
「オッケーオッケー、もう聞きたくない」
「同情するよ。使い方はまた後でね」
そう言葉を切ると世界が移ろいはじめた。
またあの場所に戻されるんだろう。
めんどくせぇし、おっかねぇ。
そして現実に戻る。
目の前には両目を瞑ったままのリタの顔があった。
体の自由が戻った瞬間コマの要領で回転したオレは、見事リタの『包囲網』を脱出した。
さすがの知恵者もこれには驚いたらしい。
手を宙に浮かせたまま唖然としている。
「あ、アルフ?」
「リタ、かつてした質問をもう一度聞く」
「え、ええ。何かしら?」
「オレ達の間に子が産まれたら、どうする?」
質問した矢先、リタは両目をクワッと見開き、意思の籠った目でオレを射抜こうとする。
一体どんな感情が支配しているのか、口許を痙攣させながら矢継ぎ早に捲し立てた。
「子供! 子供が産まれたらもちろん世界征服よ! 2人では統治できなくても5人も居ればきっとうまくいくわ! そうすれば世界があなたを知る、その神をも凌駕する美しい魔力の輝きを! 征服後はあらゆる詩人や芸術家にアルフを讃える作品を山のように作らせて後世の財産に……」
「はい、落第ぃー」
「ヘムッ!」
はぁ、前より悪化してんじゃねぇか。
世界に名を広める程度だった話が、いつの間にか世界征服にまで願望が膨らんでいたとは。
リタおっかねぇ、マジで。
そのおっかない人は隣で気絶している。
少しだけ勿体無く感じた自分に、少なくない衝撃を覚えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます