第71話  ここには居られない

あれからもモコのレクチャーは続いている。

もう頭が限界だからとっとと帰して欲しいんだが。



「最後に君の役割の【定めるもの】についてだけど、これについては詳しく話せない。」

「お、そうか。じゃあ帰っていいな。」

「焦んないで。役割の説明をしちゃうと今後に支障が出ると思うから。」

「支障?」

「ともかく、なるべく多くの人たちと接してみて。できるだけ色々な人たちの話をきいて。世界のたくさんの場所を訪れてみて。僕から言えるのはそれだけだよ。」

「お、そうだな。帰って良いよな?」

「ほんと君ってヤツは。まぁいいよ、伝えたいことは全部言えたし。」



すまんなモコ、たぶん話された半分も頭に入ってないぞ。

特に魔法や国の歴史のあたりな。



「じゃあまた向こうの世界でね。可愛いペットとして接しておくれよ。」



言い終わるのを待たずに、徐々に世界が戻っていく。

ようやく小難しい話から解放された!

自由って素晴らしい!


そう思ったのも束の間。

自室の机には大量の書類が届けられていた。

プリニシア関連の話らしい。


堅い話はもう身体が受け付けようとしない。

こんな状態ではとても作業になるまい。

文字が一向に頭に入ってこないのだ。

もうこれ、誰かに押し付けちゃって良くないか?

うん、いいよな!


という訳で、全部クライスに送り届けてやった。

「好きにやれ」というメモだけ添えて。

後ほど苦情とリタの手作り菓子を目当てに、ここへやって来ることだろう。


だからオレたちは逃げる。

ちょっと遠くの国まで、一週間ほど。

人っ子一人いない我が家の前で立ち尽くすが良い。



晩御飯のあとに皆から旅行の目的地について話し合った。

オレは遠くに行ければどこでもいいしな。

みんなの意見をまとめるとこうだ。



・プリニシア王都へ歴史的建築物とか見に行きたい。

?保留。王都だとプリニシア上層部の連中がうるさく押し掛けてくるかも。


・グランニアの魔王様とシルヴィアちゃんの聖地に行ってみたい。

?却下。わざわざ嫌な記憶のある国に行きたくない。


・大陸の中央にある、奇跡の湖に行ってみたい。

?保留。前の旅行の時にも湖はいったよな。


・どこでもいいから、私としっぽり大人の夜を過ごしましょう。

?大却下だ森の痴女。明日の朝食は鳥料理決定な。


・自由都市ゴルディナのマーケットを見に行きたい、街を散策したい。

?二票入ったか。あそこなら暇にならんだろうし悪くないな。



結局多数決のようになり、次の旅行先はゴルディナに決まった。

聞いた話によると商人による、商人のための街だとか。

大陸で最も栄えた街だって言うヤツが居るくらいだから、期待が持てるというもの。


出発の朝に、扉に書き置きを挟んでおいた。

クライスが突撃してきたときの為のものだ。


【ここには居ねえよ バーカ】


よし、これでいいだろう。

子供っぽい振る舞いをリタにたしなめられつつ、自由都市ゴルディナへと向かった。

オレの魔法で飛んでいったんだが、片道2時間近くかかってしまった。

大人数で大陸の端から端へ移動したからだろうか。


空からゴルディナに向かったから、その大都市を空から鳥瞰できた。

港町でもあるゴルディナには港があり、とんでもなく長大な城壁が街をグルりと囲んでいる。

高台には石造りの巨大な宮殿らしきもの、街の中心には大劇場、隣接するマーケットは桁違いの数の露天や商店が並んでいた。

早くもシルヴィアは大興奮。

城壁の外に降り立ったオレは、急かされるように腕を引かれた。



買い物しようとか、観劇にいこうとか、まずは宿に行こうとか、皆はしゃぎながら今日の予定について話し合っている。

この時のオレはまだ、まもなく訪れる運命の出会いに全く気付いていなかった。

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