第67話  光


あまり期待はしてなかったが、アシュリーは復活してなかった。

せめて復調にむかってくれてたら、くらいには思っていたが。



「リタ、今度こそ回復魔法だ!」

「わかったわ。・・・・・・なんてこと!」

「どうした?!」

「確かに邪魔をしている力は無くなったわ。でも回復魔法が効かないのよ!」



その言葉の通り、アシュリーには回復魔法の光が灯らない。

アシュリーの手を握っているリタの手には、強い力が籠められる。

まるで本人に呼び掛けるように。



「それは一体どういうことだ?!」

「なんて言えば良いか・・・。本来魔法を相手にかけるときは、相手の中にある 糸 のようなものと、こっちの中のそれと繋げるの。そうすることで相手にこちらの魔法が伝わる仕組みなんだけど。」

「その糸とやらに問題があるってことか?」

「アシュリーに繋がらないの。強い干渉を受け続けたせいで、かけにくい状態になってしまったのかも。」



魔法がかけられないから、と言って放っておける容態でもなかった。

体力が残ってそうなら回復を待つこともできただろうが、アシュリーは虫の息だ。

無茶をしてでもなんとかする必要がありそうだ。



「リタ、もう一度かけてくれ。今度はオレも協力するから。」

「・・・そうね。でも無理はしないで、アルフも限界が近いんでしょう?」

「命に比べたら安い、やるぞ。」



リタがもう一度アシュリーの手を握り、回復魔法の光を放ったのを見てからオレも手を添えた。

魔力枯渇を起こしかけているリタには、もう簡易の回復魔法しか使えないようだ。

それをオレの補助によって上級魔法の域まで高めた。



「グッ・・・これは、キツいぞ。」

「アルフ・・・。」

「情けねぇ声出すな、まだまだやるぞ!」

「・・・ええ!」



リタと力を合わせて回復魔法をかけ続ける。

依然としてアシュリーに変化はない。

クソッ、光れよこの野郎!

お前はいつまで寝てる気だ?!

周りを見てみろ、全員がお前の事を本気で心配してんだぞ!


どんどん魔力が目減りしていく。

リタの前にオレが倒れちまうかもしれない。

そんな気弱な気持ちを必死に打ち消した。

コイツが死ぬなんてあってはならない。



その時にアシュリーが目を開いた。

意思の力が宿った、真っ直ぐな目だ。



ドクンッ。



心臓に血が逆流したような感覚。

尋常じゃないほど嫌な予感がする。

まるで・・・死神の鎌が喉をかっ切らんとしているような予感が。



「アルフ、皆さん。ご迷惑をおかけしました。」

「アシュリー!」

「アシュリー殿!」

「アシュリー姉様!」

「アシュリーお姉ちゃん!へいき?!」

「アシュリーさん、しっかり!」

「森の賢人というのは、本来孤独な生き方をする種のはずが・・・いつの間にか、皆さんとの暮らしが、とても楽しくなって。毎日が輝いていて、素晴らしい日々でした。本当に、それは本当に・・・。」



今もアシュリーには魔法がかかっていない。

それなのに、昏睡状態からは考えられないほど、芯の通った声だ。

それが不吉さを、より際立てさせた。

なぜ今になってそんな話をするのか。



「最期にお願いがあります。この森についてです。次の管理者が現れるまでアルフに」

「ふざっけんじゃねぇよ!」

「・・・アルフ?」

「最期だと?そんな訳ねえだろうが!ボロボロのオレ達を見ろ、泣き顔の子供達を見ろ!みんなお前に死んでほしくないんだよ!またバカやって楽しく暮らしてえんだよ!」

「ありがとう・・・ごめんなさい。私はもう、きっと・・・。」

「オレはお前が居ないこの森を認めない!お前が居ない日々を、オレは認めないからな!」



もう出し惜しみはしねえ、フルパワーを食らえアシュリー!

クッソ、これでもダメかよっ。


繋がれ、オラ!

光れや、コラァ!!


リタも祈るように魔法を唱え続けてる、こっちも必死だ。

リタの限界が近いのか、手が小刻みに震え始めた。

時間は残りわずかだ。

絞りカスになるまでオレの魔力をくれてやる!



ブチッ

今何かが切れるような音がした。

ブチッブチブチブチッ

きっと、オレの中の何かだ。

無茶が祟って体に異常でも起きてるのか?


んな事知るか!

今命を張らなきゃ死ぬまで後悔すんだろうがァーー!



アシュリー戻ってこい!

戻ってこいよ!!





繋がれぇぇぇえええーー!!





その時だ。


突然、視界の動きがスローになり、やがて止まり、世界が音と色を失った。

この感じは・・・モコだな。



何度目かのこの呼び出しを、オレは苛立ち全開で受け入れた。

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