第66話  ワンサイドゲーム

触手を切れるようになったのはいいが、全てを切断しきる前に本体が飛び出してきた。

巨大な目からそのまま手足のように触手が生えている。

なんともおぞましい姿だろうか。


私の技能とリタのエンチャントで、なんとか有効打を打てたのだが・・・早くもリタは枯渇寸前にまで陥ってしまったようだ。

今は壁を背負って、リタを庇いながら触手を弾くことしかできていない。

こちらは防戦一方で、完全に追い詰められていた。

私は背中越しに悲痛な声を聞いた。



「エレナ、あなたは動けるでしょう。アルフのもとに戻って!」

「バカなことを。私が離れたらリタ殿は直ぐ様に殺されてしまうだろう。」

「でもこのままじゃ、二人とも殺されてしまうわ!」

「そんなことより次の攻撃を教えてくれ。」

「・・・右から2本、左から2本で時間差で1本よ。」



リタ殿の攻撃の予知でどうにか凌いでいる。

相手の魔力の流れを読む事でも消耗してしまうようで、この防御法も長続きはできない。


こちらの攻撃は通らない。

相手の攻撃は厳しさを増していく。

このまま打開をできなければ・・・







一つの言葉が頭をよぎる。

負ければきっと死ぬだろう。

情けをかけてくれるような相手には見えない。

恐怖心を振り払うようにして息を吐いて、剣を正眼に真っ直ぐ突き出した。

あらゆる攻撃に対処できるように。



「右から2、左から5、間を置いて右上から3!」



振るわれる触手の数が次々に増えていく。

こっちにまともな攻撃手段が無いことがバレているのだろうか。

右の触手をまとめて切り上げて弾く。

返す動きで左の2本を弾き、1本を避ける。


残り2本を横薙ぎ・・・いや撃ち下ろしだ。


それは一瞬の迷いだった。

それが時として決定的な結果に繋がることがある。

今回もそうだった。



剣の刀身に触手がからみつき、武器を奪われてしまった。

触手は掴んだ剣を遠くに投げ、カラァンと乾いた音を響かせた。

終わりの合図だ。

まるで一日の終わりを報せる鐘のように。



「あ・・・。」

「不覚だ、なんという未熟!」



手元にもはやまともな武器はない。

せめてもの贖罪のためにも、リタを守るようにして覆い被さった。

アシュリー、みんな・・・すまない!

私は異変を正すことも、護ることもできなかった・・・。



私はすぐにでもやってくる「死」を覚悟したのだが。



「ヨイッッショォォー!オラァァア!!」



超高速で飛んできた塊が、触手を本体ごと吹き飛ばした。

怪物は抵抗する間もなく壁に激突する。

こんな真似が出来るのは一人しかいない。



「おい、エレナ。丸腰になったぐれぇで勝負投げんなよ!お前の腕は何のために生えてんだ?」

「・・・アルフのような化物と一緒にするな。」

「あ?第一声がそれか?勝負捨てるわ礼も言わねぇわ・・・後でケツビンタだからな!」



え、何それ。

ちょっとワクワクする。

・・・じゃなくて!

この化け物のやっかいさを教えなくては!



「アルフ、そいつには物理攻撃が効かない!魔法か魔法剣で戦うしかないんだ!」

「あーうっせ、大声出すなよ。さっきの一発でわかってるからよ。」



そういうとアルフは腰だめの姿勢になり、充分な力を籠めようとしている。

とてつもない力が集約されようとしてる事は、魔法に疎い私にも理解できた。

化け物はというと、ようやく体を起こせた段階で、次の動作にすらまだ移れていなかった。



「人んちで散々暴れやがって。運動したけりゃどっか広いところでやりなさい!」



巨大な目玉の頭に振り下ろされた一撃。

アルフは化け物をロングソードで押し潰した。

斬ったんじゃない、文字通り押し潰した。

怪物は振り下ろされた剣撃を、柔軟な体で殺そうとしたのだが。

そこでアルフは手段を変えずに強引にいった。

どんどん体が伸びていく化け物を意に介さず、ひたすらに力をかけ続けて、最終的にはグシャリと潰れた。

相変わらずデタラメな男だと思う。



「リタ、こいつが元凶なんだろう。魔力の流れが変わったようだがどう思う?」

「ええ、確かに。森に向かう流れになっているわね。」

「これでアシュリーは戻るのか?」



リタは残念そうに首を振った。

元凶を絶ったはずなのになぜなのか。



「たぶん、これ以上悪化しなくなったというだけで、回復まではしてないと思うわ。峠を越すまでは危険な状態じゃないかしら。」

「じゃあすぐ戻らないとな。走れるか?」

「それくらいなら。」



急ぎ来た道を引き返すこととなった。

異変が片付いても、私たちの問題は解決していない。

アシュリーの元へ一刻も早く戻らなくては。


洞窟を出ると直ぐ様アルフの魔法で飛んだ。

連戦が堪えているのか、アルフの顔色も悪い。


家に着くとシルヴィア達が出迎えてくれた。

家の方は問題がなかったことにホッとする。

話もそこそこに寝室へと向かった。



そこには、瀕死のままのアシュリーが居た。

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