第65話  アドリブの恐怖

あれから奥へ向かっている私とエレナ。

アルフは一人であのミノタウロスの異常種と戦っている最中だ。

私たち二人の力じゃ、足手まといにしかならないから離脱したのだけど・・・いくらなんでも一人で戦うなんて危険すぎる。

私たちは異変の元を正して、早く戦線復帰する必要があった。



「リタ殿、ここが最深部のようだぞ。」

「そうね、これ見よがしに怪しいのがいるわね。」



最深部の部屋に触手の塊のような怪物がいた。

何十本も生えている触手の中心には、何やら水晶のようなものが見える。

付近の魔力はこの触手を通してその水晶に集約されていた。

ようやく見つけた。

こいつが森の異変の、アシュリーを苦しめている元凶だと確信する。



「エレナ、まずは触手を断ち切るわよ。」

「承知!」



エレナは右側の触手に切りかかり、私は左側の触手に風魔法で攻撃した。

一気に範囲魔法で切断するつもりだったが、多少の傷を付けただけで一本も切れなかった。

エレナの方は妙な弾力に阻まれてしまい、やはり切断できない。



「物理無効、あるいは強耐性か。」

「魔法も厳しいわ。ある程度効果があるけど、これにも耐性があるみたい。」

「ぬう。早い内に倒さなくてはならないのに。」

「理屈としては、より風魔法を鋭く集約できれば切れそうなんだけど・・・。」



それからしばらくの間、多くの手段を試したが切断まではできなかった。

詠唱付きのフルパワーの魔法でもダメ、エレナも技能を使用したけど、一本も切れない。

物理が効かないなら、自分が大狐化してもダメだろう。


・・・まずいわね。


幸い相手からの攻撃がないから危険はないが、安心できる状況でもない。

何か有効手段を見つけないと、いずれ力尽きてしまう。



「リタ殿。風魔法がより鋭利になれば切れそうなのか?」

「そうね。今のところ一番効いてるのも魔法だし、あとは威力の問題ね。」

「例えば私の剣を魔法剣にできないか?それで攻撃すればあるいは。」

「エンチャントね。確かに理屈の上ではそうなのだけど。」



膨大な魔力を消費するエンチャントは、最後の手段と言って良い。

常時展開できるアルフと違って、自分にはそこまでの魔力量はない。

魔法を唱えてある程度消耗してるから、数分もてば良い方だろう。



「長くはもたないわよ、それが空振りになったら私は動けなくなるし。」

「他に手段があれば試すが、何かあるか?」

「・・・無いわね。もう切り札に頼るしかないのね。」

「今は時間が惜しい。早速試そう。」



こうしている今もアシュリーは死の淵をさ迷っている。

出し惜しみしている余裕なんか無い。



「いくわよ、出来れば早く倒して!」

「任せろ。邪な魔物よ、我が剣技を味わうが良い!」



【真斬】



エレナが技能で攻撃した。

彼女も出し惜しみを止めて大技の技能を繰り出した。

腰だめの姿勢から放たれる渾身の一撃。

その剣には私の魔力と、エレナの技巧が合わさっている。



十数本の触手が吹き飛んで空を舞い、返す刃で数本を切り飛ばした。

成功だ!

耳慣れない叫び声が響いて、地面が揺れる。

魔力の流れも途切れ途切れになり、正解を見つけたことを確信した。


残りの触手を切り飛ばそうとすると、地面から巨大な生き物が姿を表したのだった。



______________________________________



クソッ、この馬鹿力野郎が!

オレの攻撃範囲外からブンブン斧を振り回しやがって!

ロクに近づけもしねぇ。

エレナだったら懐に潜り込んで一撃を見舞うんだろうが、オレにそんな技術はない。

相手の放つ大振りの攻撃を避けるだけで精一杯だ。



さらにやっかいなのは魔力障壁だ。

隙をついて魔法で攻撃してみたが、全て弾かれる。

もっと魔力を込めた攻撃を繰り出したいが、そんな余裕をくれるほど甘い敵ではない。

どうしたって浮き足だったような攻撃になってしまう。

さすがにタイマンは無理があったか?



やりあっているうちに気づいたことがある。

コイツの魔力障壁は、自分で生成してるものじゃない。

どこか別の場所からやってくる魔力に依存してる。

その供給さえ断てればグッと楽になりそうだ。

あ?コイツの攻略法はって?

そんな簡単に見つかるかよ甘えんな!

まぁあるとしたら、魔力障壁ごとぶっ倒すのが一番だがな。



うおっ、いきなり突っ込んできやがった!

つばぜり合いの形になる。

こんの馬鹿グソ力野郎が調子乗りやがって!

ふんぬぉおお魔力がごっそり持ってかれるー!



たたらを踏むようにしてどんどん壁際まで追い詰められた。

魔力に気をとられた隙をつかれちまった。

やばい、逃げ場がないかわせない。

振り下ろされた斧を真っ正面から受けた。



クソックソックッソォォオオオー



お?




なんだ、突然魔力の流れが乱れてんぞ?

具体的には右半身って感じか?


んーーよいっしょ。

グォオオオオオーー!!



足元の小石を蹴りあげて顔にぶつけてやった。

それが見事に相手の目玉にクリーンヒット!

器用だって誉めててもくれてもいいのよ?


今の攻撃がよっぽど効いたのか、怒り狂って暴れまわってる。

ハッハッハ、この魔王アルフレッド様を手こずらせたことを褒めてやろう。



だがこれまでだ!



充分に魔力を籠めて右半身目掛けて一撃を放つ。

今度こそはかっこいい名前とか叫びながらバシッと決めてやる。

前回の戦役のときはうまくできなかったからな。

今回こそギラッギラにかっこいい必殺技を・・・



んーーー



んんーー、ヨイショオオオー!!

ズシャッ


グォォオオオン・・・・・・。



よし、悪は滅びたな。

すぐにでもリタ達の後を追うか。



・・・いや違うから、よいしょとかそんな技名無いからな?

泣いてないし、全然泣いてないし。

アドリブに弱いことなんか全然嫌じゃないし。

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