第63話  ずっと一緒

それはいつもの朝の光景だった。

リタは皆より少し早起きをして、手早く朝食を用意する。

三々五々、夢の世界を引きずりながらそれぞれが食卓に座る。

コロを抱っこしながら起きてきたシルヴィアに至っては、座りながら舟を漕ぐのもよくある光景。

そしてリタが皿を並べ終えてから、一斉に食べ始めた。

オレ達が異変に気付けたとしたら、この辺りからだろう。



「今日も会談尽くしかよ、クソだりぃな。」

「ほんと毎日誰かくるんだね。よく途切れないなぁ。」


「リタ、私は外すから昼食は不要だ。」

「あらぁ、今日は警備の日だったかしら?」


「シルヴィアちゃん、そこは鼻ですよ。ご飯はお口に入れるんですよ。」

「んーー?あれー、もう朝なのー?」


「こらっ、コロちゃん!朝から運動会しないのっ。モコちゃんが嫌がってるでしょう?」

「アンッアンッ!」




「ふぅ、ご馳走さまでしたー。」

「あら、アシュリー。半分も残してるけど、調子悪いの?」

「疲れてるんですかねー、どうも体が受け付けなくってー。」

「んーー、風邪でも引いたかしら?」

「かもですねー、やることやったら今日は寝てますね。」



そういって、アシュリーは少し怪しい足取りで家を出ていった。

皆が不安そうにドアを見ている。



「アシュリー大丈夫かしら。」

「やることやったらって、森で何かあったのか?」

「ここ最近、森の様子がおかしいってぼやいてたわね。もしかして・・・そのせいかしら?」

「何がだ?」

「アシュリーみたいな、その土地の土着の魔の者は、生まれた場所の変化に大きく影響されてしまうの。」

「じゃあ、風邪じゃなかったら森の状況が相当悪いって事か?」

「そうなるのかしらねぇ。大事にならなきゃいいんだけど・・・。」

「森がおかしい原因について、何か聞いてるのか?」

「いいえ、アシュリーにも良くわからないとかで・・・。」


頬杖をつきながらリタはため息を漏らす。

オレはというと、フツフツと沸き起こる不安を飯を掻き込んで誤魔化した。



夕暮れの頃にアシュリーは戻ったようだ。

疲れた顔をしているが、いつも通りのようで全員が安堵した。

晩飯もほどほどに食べていたし、朝見せたほど体調は悪くなさそうだ。

ちょっと数日休ませてもらいますかねー、などと言ってその日は眠りについた。




翌朝。

朝食の準備は終わっているが、アシュリーだけ起きてこない。

オレはリタに目配せをして寝室に向かった。



「アシュリー、起きてるか?朝だぞ。」

「アシュリー?入るわよ?」



中に入ると昏睡状態のアシュリーがいた。

部屋が開いたことすら気付いていないのは、意識が混濁しているせいか。



「みんな部屋には入るな!リタ、回復魔法だ!」

「わかったわ!」



すぐさま手を握って回復を試みた。

よく見ると、腕に斑模様のようなものが浮き上がっている。

病気なのか、例の異変が原因かわからないが、ただ事じゃないのは間違いない。



「ダメね、全く反応がないわ。」



リタの言う通り、アシュリーに魔法がかかった様子はない。

回復魔法は術者とかけられたものが、まるで繋がったようにどちらも光が灯る。

今回はアシュリーにその発光が見られなかった。

魔法がかかっていない証だ。



「でもわかったことがあるの。これは病気じゃなくて干渉よ。どこからか強力な力が働いてアシュリーを弱らせているわ。」

「つうことは、異変とやらが原因で間違いないな。」

「そうとしか考えられないわ。」

「よし、わかった。」



オレは急ぎ飛び出して、外に出た。



「ワン公!出てこい!」

「お呼びでございますか、我が主よ。」



草原の彼方から巨大な狼が駆け寄ってきた。

コロのボスでもあるグレートウルフ・ロードだ。

森の調査はコイツに頼むのが一番だろう。



「豊穣の森で異変だ。どこかで大きな変化が起きてるはずだから、それを見つけて報告しろ。」

「承知しました、一族を挙げて直ちに!」

「急げ、時間はないぞ!」



グレートウルフ・ロードが駆け去るとあちこちが騒がしくなった。

一族を挙げてというのは偽りないようだ。



一時間と待たずにワン公が戻ってきた。

期待持てる顔つきを見ながら報告を待った。



「ここから程なく離れた場所に、魔力の流れが狂っている所を見つけました。」

「おかしいと言える部分は?」

「本来であれば森に流れるべき多大な魔力が、見慣れない穴に吸い込まれております。このような現象は極めて珍しく、我も伝聞でしか知りませぬ。」

「わかった、他には?」

「目ぼしいものは、特に。」



オレは矢継ぎ早に集まった情報を、頭の中で整理した。

森の異変。

強い力の干渉。

吸い取られる魔力。

極めて珍しい現象。



恐らく原因はそこだ。

ここまでの情報に齟齬がない。

オレは全員を集めて告げた。



「リタ、エレナは着いてこい。グレン、子供達を頼む。ワン公は案内した後この家の守備。配下の狼には、念のため他の場所も探らせろ。」

「おとさん・・・。」

「シルヴィア、不安だろうが良い子で待ってるんだよ。」

「おとさん、アシュリーお姉ちゃんを助けて。でもあぶないこと、しないで?」

「わかった、危ないことには気を付けるよ。」



シルヴィアの頭を撫でてから、直ぐ様出発した。

子供たちがオレらを見送っているのが見なくてもわかる。

皆口には出さないが、気持ちは一緒だった。



誰一人欠けることなく。

ずっと一緒に。

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