26-1 マーマロッテside 久遠へと続く契り / cutting for your dawn
宇宙に飛び出すと暗闇と光に溢れる景色が広がっていた。
この空間では息ができないと教わっていたが今は問題なくできる。
どうやらカリスの血で目覚めたアイテルが地球の空気を周囲に送り込んでいるみたいで、全身をよく見ると、なにやら不思議な球体状の空間が煌々と輝きを放って追尾していた。
時間はあまり残されていないので早いところオントの宇宙船を見つけたい。
タデマルから聞いていた位置をもとに周辺を確かめてみる。
広範囲を飛び回ってみたがそれらしきものはなかなか見つからなかった。
後ろを振り返る。眼前には視界に入りきらないほどの大きな星が佇んでいた。
眩しすぎる光に照らされた青い球体。表面には白いものが渦を巻いている。
透き通るように綺麗な星。
私達はここで出会い、心を許し、そして結ばれた。
メイルもここにいたらきっと忘れられない思い出になったことだろう。
でも、彼はこの光景を見ないまま素敵な世界を築いていくことになる……
どうせ私はクローン。
こんなやつが一人いなくなったって、明るい未来はきっと訪れる。
再び地球を背にしてオントの捜索を続けた。
宇宙空間を目視で見ていくが真っ暗な景色しか確認できない。
おそらく、宇宙船は光を放っていないのだろう。
ならば、暗くて視界に映らないものを探し出せばいい。
なにかいい方法はないのか。
……。
アイテルで触れて確かめる。不意にそんな言葉が脳裏を横切った。
目を閉じて全身のアイテルを地球の周囲に広げてみる。
そして、微弱な星のアイテルと私のアイテルとを同調させた。
地球からのアイテルを自分の感覚に送り、近くに異物があるかどうかを探る。
あった。
私は大急ぎでそこに飛んだ。
向かった先にはごつごつとしたひし形の黒い立方体が静かに浮いていた。想像していたよりも大きい物体だった。
もっと近くに寄ってみる。物体はゾルトランス城くらいの大きさがあった。外装は機械兵に使われている材質とほぼ同一のもののように見える。これで間違いないだろう。
ここで破壊してしまうか。終わらせられるなら一秒でも早いほうがいい。
でもなぜか、私のアイテルがそれを『嫌がった』。
はっきり言葉にしたわけではないが、アイテルは確かにそう言った。
さらに宇宙船のまわりを見ていくことにする。すると入り口らしきものを発見した。
人が一人入れるくらいの四角い空洞の先には、白い光の線が来訪者を導くように控えめな波を打っている。
罠だろうか。
さっきは破壊を拒絶したアイテルにもう一度聞いてみることにする。
目を閉じて待っていると、中に入れという答えが返ってきた。
私は言われるがままにオントの宇宙船の中へと侵入した。
何歩か前に進むと、入ってきた空洞が扉のようなもので塞がれてしまった。それと同時に、身体を包んでいた不思議な空間も自動的に消えた。
奥へと進む。壁も床も天井も黒に染められた四角い通路には淡い白色の光の線が各一面の中間に一本伸びていて、それは突き当たりまで続いていた。
吸い込んだ空気は地球のそれとは明らかに異なり、重苦しさを感じる不快なものだった。
空間を仕切っていると思われる扉がたくさんある。開け方を知らないので壊してしまおうかと思ったが、その場に立っていると数秒でそれは勝手に開いた。
目に留まった扉を手当たり次第に開けていく。その多くは機械が詰まった空間で、動いているように見えるものもあればそうでないものもあった。
ある扉の前で強い直感が働く。この中にはなにかがあると思わせるだけの確かな知らせを全身で感じた。
中にオントがいるのかもしれない。そう思った私は、先に広がっている空間に全神経を注ぎつつ、ゆっくりと中に入った。
オントはいなかった。
そこにあったのは、オントとは異なる顔を持った人の形をしたものだった。
緑色の液体が詰まった機械の中に、合計で八体の身体が入っている。
私はこれらを見てすぐにキャジュの顔を頭に思い浮かべた。
彼らはきっと、カウザの人間の生き残りに違いない。
すぐに助け出したかった。
でもどうすればそこから出せるのか分からなかった。
私は再び、アイテルとの交信を試みる。
こちらの思いに反応したのか、全身に纏われた白い衣の一部が自分の意思とは関係なくするりと伸びて、機械を操作しはじめた。
その不可思議な動きを黙って見ていると、人が入った機械が唸るような音を出して、開いた。
緑色の液体のようなものが抜けたことによって目を覚ました彼らは、手足が動くことを確認しながら機械を出て、私の前に立った。なんでもいいから言葉をかけようと思い、自分の名前を言ってみる。
ほどなくして彼らの中の一人が聞いたこともない言葉を発してきた。どうやらこちらが話す言葉も彼らには理解できていないと思われる。
私は自分の気持ちを伝えるために笑顔を作った。すると彼らはその意味を理解してくれたのか、同じような表情を返してくれた。だが、意思の疎通はそれ以上進展しなかった。
とにかく伝えることだけはしておこうと、脱出する方法を知っているならばそうして欲しいことを身振り手振りで表現してみた。
彼らは分かってくれたのか、その時も笑顔を見せてくれた。
私はオントを操っている者のいる場所を目指すために、その部屋をあとにした。
さらに奥へと進む。突き当たりの正面にはひときわ大きな扉があった。これこそがオントの部屋なのだろうか。
扉の前にしばらく立っていても反応がない。
アイテルに開けてもらうよう頼んでみる。すると衣の一部がまた動き出して、扉の上にある機械を弄った……
そして私は、開いた扉の先に進んだ。
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