17-7



 夜になり、俺達はレイン達に頭を下げにいって、それから全員で夕飯を食べた。キャジュへの弁明にかなり戸惑ったが正直に告白することでなんとか理解してもらうことができた。


 マーマロッテとは明日から同じ家に住むことになった。レインの提案だった。今日までいた倉庫は当初の予定通りキャジュの住処となり、いずれはそこにスクネも住ませるのだという。本人達の要望なのだそうだ。

 これでスクネとは会いづらくなってしまったと思ったが、キャジュは都合が悪い時は俺のほうに預けると言ってくれた。


「あのさ、夜は断ろうね」

「駄目なのか?」

「だって、でしょ? もう、意地悪なんだから」

「おおそうか、分かった。そう言っておく」


 久しぶりに彼女の膨れた顔を見た。これをする時は決まって控えめな八重歯を見せることになっていたので、お望みどおりの顔を作ってやる。

 そして彼女から溢れる満面の笑みが、途切れていた時間を一本に繋ぐ。


「あらやだ。あなた達って笑った時の顔、そっくりじゃないの」


 レインがそれとなく放った言葉に二人で不思議がっていると、そこにいるみんなが同意の笑顔を見せた。首を傾げるマーマロッテを見つめていたらどうにも感情が抑えられなくなってとうとう俺も笑ってしまう。マーマロッテは最後まで似てないと言い張った。



 彼女の家に戻ってからは生活用具の整理などを済ませて、空いた時間を二人だけのことに使った。触れ合ったり話したりと倉庫の中でしていたことを、分かりあっているのを知りながら何度もした。


「そういえば俺が書いた手紙、まだ持っているか?」

「うん。見たい?」

「ああ。ぜひ見たいね」


 彼女から手渡されたものは、間違いなく塗り潰されていたものだった。


「ここだけどさ、どうやって読んだんだ?」

「へへへ。内緒だよ」

「なるほどそうきたか。さて、どうしてやれば教えてくれんだい? ほらほら」

「なにそれ面白い。ちょっとこないでよ変態」

「おい、変態はないだろうが。せめて変なお兄さんくらいにしてくれよ」

「ちょっと、やだあ。くすぐったいってば」

「おい、吐けよ。吐いちまえって」

「ははは。だから、ははは。内緒だって、ははは」


 つまらないことで笑い合える幸福。

 これが俺達の求めていたものだった。


 初めて出会ったあの日から、長い長い苦しみを経てようやっと掴んだもの。

 彼女だったから乗り越えられたもの。そして、これから乗り越えていくもの。

 一人では乗り越えられなかった困難も、二人だったらきっと越えられる。


 苦しかった過去を愛おしく思える日が来るのを信じて、俺はこのかけがえのない笑顔を守り続けていたい。

 その最後の瞬間まで、この身体が朽ち果てたとしても、ずっと……



 ……ありがとう、マーマロッテ。

 お前と出会えて生きる意味がやっと見つかったよ。

 ……だからもう、一人になんかさせない。

 ずっと側にいるから、辛いことがあっても一緒に乗り越えていこうな。



「おやすみ、マーマロッテ」

「おやすみ、メイル」


 そして俺達は、この日から新しい人生を歩きはじめた。






『マーマロッテへ


 それじゃ、元気でな。みんなにもよろしくと伝えておいてくれ。

 生まれ変わったら、今度こそお前を抱きしめられる男になるよ。


                         メイル・メシアス』

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