15-4
ルウスは私に話しかけるのが怖くなったらしくアザミの横に立っていた。その視線はいずれもレシュアの気持ちよさそうな寝顔に向けられている。
アザミがルウスに微笑みかけると、ルウスも穏やかな吐息を漏らした。
「……レシュア様、お強い顔立ちになられましたね」
「そうだな。きっと多くの辛い経験を超えられたのだろう。なにはともあれ、無事でよかった」
「……はい。レイン様達が近くにおられて、本当によかったです」
「私達の意味がまだ残っていることは、実に感慨深いものがある」
「……はい」
二人の会話を遠くから眺めていると、アザミが私を呼んだ。
レシュアの顔を見て欲しいと言うので一緒に覗き込んでみる。
いつもの可愛いレシュアだった。
「……この子、きっと恋をしていますね」
「分かるの?」
「ええ。だって、全然違いますもの」
「へえ。私にはその変化分からないわ。アザミって結構乙女なのね」
「あの、すみません。出過ぎたことを言ってしまって」
「気にしないで。それに、あなたの予想たぶん当たってると思うし」
「え、そうなのですか? お相手の方は今どちらに?」
「一応この都市の中にいることはいるんだけれど、その、なんていうかね、ちょっと体調崩しちゃってね。ははは」
「そうなのですか。一目拝見したかったのですが、今回はやめておいたほうがよさそうですね。すみません」
次回はないかもしれない。その経緯を伝えられないことがもどかしかった。
シンクにも注意されたように、レシュアのことを考えると現時点では黙っていたほうがよさそうだとあらためて思った。
アザミの興味は未だレシュアの恋に留まっていたみたいなので、話の方向を少し変えることにする。
「ねえアザミ、レシュアが想いを寄せている人ってどんな感じの人だと思う? あなたの想像でいいから聞かせてくれない?」
アザミはもう一度レシュアの寝顔を覗き込んで首を傾げたりした。難儀しているのだろうか。適当に答えてくれればそれとなく肯定して終わるだけの会話なのに、彼女は真剣な面持ちでレシュアを観察し続ける。
「そうですね、レシュア様と似た感じの方、でしょうか。自分のことは二の次でいつも他人のことのためだけに生きているような、そんな感じの方に見えます。間違っていますでしょうか? ……レイン様? どうかされました?」
また泣きそうになった。今日は泣きっぱなしだったのでちょっとしたことでも涙腺が反応してしまう。
決して悲しいわけではない。自分にはそう言い聞かせることにした。でなければそのうち理性が吹っ飛んでしまうかもしれない。
「あなたすごいわね。そうそう、そんな感じの人よ。優しすぎるところがまた不器用でね、時々みんなを困らせちゃうのよ。でもね、みんな最後は笑顔なの。そういうことができる人よ、彼は」
「……はい。私にもそう見えました。とても素晴らしい方です。レシュア様はそんな彼を控えめに見つめていらっしゃったのでしょうね。自分にはもったいない人だと感じて、でもその方を物陰から支えようと頑張っていらっしゃったのだと思います」
「彼もレシュアに対して同じ思いを抱いていたわ。だから離れられないのよ、この子達は」
「レイン様」
「なに?」
「きっとこの子は、そんな彼を見捨てたりはしないはずです。だから、静かに見守りましょう。きっとよくなりますから」
「そうね……」
施術がはじまる前に彼から受け取ったもののことを思い出した。その中身はレシュアに宛てた手紙だった。
彼が死を覚悟して託した言葉がきっとその手紙の中に記されているはず。どんな言葉が書かれているのか気にはなったけれど、込められた思いが薄れてしまうといけないからと今も懐に仕舞っている。
アザミの言葉には勇気づけられるものがあった。
レシュアだったらきっと彼を救い出してくれる。
だから、彼も絶対に救われる。
この世界にメイルを心から理解できる存在は、この子しかいないのだから。
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