13-6
「どうして黙っていたんだ?」
「……へへへ。ばれ、ちゃったんだ」
「笑い事じゃないだろ。みんな心配したんだぞ!」
「……みんな、か。そう、だよね。心配、しちゃう、よね」
「キャジュは泣いていた。近くにいたのに気づいてやれなかったと自分を責めていた。ヴェインなんかはもっと酷かった。暴れそうになるのをみんなで押さえつけて、大変だったんだぞ」
「……みん、なは?」
「あんたの身体を調べ終わったから飯を食いにいった。キャジュにはその後スクネを風呂に入れてもらって、あとは爺さんのところで面倒を見てもらうよう頼んだ」
「……メイル、は?」
「俺は食べなくてもいい。それに、ここを離れるのが不安だから」
「……食べて、きなよ。お腹、空いちゃう、よ」
「あんたが心配することじゃない。それよりも、今はどんな感じだ? どこか痛むか?」
「……分から、ない。身体が、動か、ないんだ。へへへ。私、死ん、じゃうの、かな?」
「どうしたいんだ。生きたいのか?」
「……その、質問は、痛いね。なんで、そんなこと、聞くの?」
「生きたいやつがこんなになるまで黙っているわけがないだろ。どうしてだ、どうして黙っていたんだ!」
「……それは、言えない。無理だよ。いくら、メイルの、頼みでも、それは、答えられないよ」
「死ぬまで秘密にするつもりなのか」
「……やっぱり私、死ぬんだ」
「……」
「……ねえ、いつまで、持ちそう?」
「明日だ」
「……そっか。さすがは、メイルだね。いつ、だって、正直なんだ」
「本当は悔しいんだろ? 自分の思うとおりにいかなくって」
「……え?」
「俺みたいなやつに負けたと思われたくなくて、強がっているだけなんだろ」
……違う。それは違うよ。
……お願いだから、もっと笑ってよ。
……明日になるまでここにいて、笑ってくれるだけでいいんだよ。
「……正解。メイルは、なんでも、お見通し、なんだね。酷い女、でしょ? 私って。ほんと、呆れちゃう、よね」
「ああ。あんたはどうしようもない女だよ。最低なやつだ」
「……ごめん、ね。こんな、やつの、ために。本当は、ご飯、食べたかった、よね。へへへ」
「仕方ないさ。あんたを守ると約束してしまったからな。一時の感情ごときで投げ出すわけにはいかないだろ」
死ぬほど嬉しい言葉だった。
身体はろくに動いてくれないくせに、目頭だけはしっかり反応する。
流れたければ、もう勝手に流れてしまえばいい。
「……あの時の、約束、まだ、憶えて、いたんだ」
「あの時?」
「……十一年前に、大きな、木の枝で、交わした、約束の、ことだよ」
「ああ。確かに登ったな」
「……私は、あなたに、これからも、ずっと、守って、欲しいと、お願いして、あなたは、人は、守り合わな、ければ、一緒に、生きては、いけないと、教えて、くれた。だから、私も、あなたを、守るって、いう、約束だよ」
「そう、だったのか……」
「……でも、おかしいね。まだ続けて、いたんだ。メイルって、ほんと、馬鹿だね」
「ああ。馬鹿だったな……」
「……もう、いいん、だよ。そんな、こと、忘れちゃい、なよ」
「今まで辛い思いをさせて、悪かったな」
「……ん? なんの、こと?」
「これで迷いがなくなった。それだけのことだ」
「……ずるいよ。教えて、よ」
「あんただって言わなかっただろうが。それとも、前言撤回するか?」
「……じゃあ、いいよ。もう、聞かない、よ」
「レシュア、話すのはこれで終わりにしよう。無駄に体力を使われても困る」
「……もう、ちょっと、話そうよ。久しぶり、なんだし」
「頼むから、言うことを素直に聞いてくれ。少し目を閉じてろ」
「……一つ、お願いを、聞いて、くれる? それなら、言うこと、聞く」
「なんだ。変なことはよせよ」
「……私の、こと、マーマロッテ、て、呼んで」
最後の思い出に、あなたが囁くその一言を、私にください。
ずっと、大切にしますから。
「マーマロッテ」
「メイル」
ありがとう。本当にありがとう。
世界でたった一人の愛しい人。私のたった一人の人。
とても短い間だったけど、幸せだったよ。
もうこれで十分。思い残すことはないよ。
あなたも幸せに生きてね。あなたは長生きしてね。
私、ずっと遠くで見守り続けているから。
今度会ったら、また木登りしようね。
約束だからね。絶対だからね。
……メイル。
私を見つけてくれて、本当にありがとう。
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