12-8



 彼らの後ろで静かに眺めていたレシュアが無表情のままどこかにいなくなってしまう……


 レインは顎で早くしろとロルに命令した。


「あのね、お嬢ちゃん。そこのお兄さん悪いことしちゃったから連れて行かなくちゃいけないの。分かるかな?」

「やだ。わかんない。メイにいちゃんわるくないもん!」

「どうして分かってくれないかなあ。メシアスさん、お願いですよ。このままだと俺までお仕置き食らってしまうんですよ」


 スクネと一緒では駄目なのかを再度確認した。駄目とのことだった。

 この子のことを考えれば大人しく捕まっていたほうが最小限の被害で済むかもしれない。身勝手な行動さえしなければレインもそのうちこちらの要求に耳を傾けてくれるだろう。

 不本意だったが彼らの良心を信じて素直に拘束されることにした。


 俺はしゃがみ込んでスクネと顔を向き合わせる。

 見つめ合うだけでは足りないと思ったので、小さな両手を握ってそっと持ち上げてみた。スクネは少し恥ずかしそうな笑顔を返してくれた。


「しばらく離れることになる。ちょっとだけ辛抱していてくれ。すぐにまた会えるだろうから。ちょっとだけ、行ってきてもいいか?」

「スクネ、いいこにしてれば、あえる?」

「いい子にできるか?」

「うん。できる」


 両手を前に差し出すと、スクネがすぐに飛び込んできた。

 困った時はこれが最も効果的だった。なによりも俺が安心した。きっとスクネもこの安心を求めているのだろう。


「いいか、泣くなよ」

「なかない。スクネいいこだから」

「お前の後ろにいっぱい人がいるだろ? あのお面をつけた怖そうなおばさんの左に立っている髪の短いお姉さん、分かるな? あの人のところに行け。あの人はとても優しいお姉さんだから、きっとお前も気に入ると思う。なにか困ったことがあったらあの人だ、いいな?」

「うん。あのこわいおばさんの、となりだね。うん、わかった」


 スクネの手を引いてレインの前に立たせた。

 レインはスクネの手を握ろうとする。スクネはそれを嫌がってキャジュの太腿にしがみついた。


「おばさん、こわい」


「お、お、お、おばさんですって!? ちょっとあなたこの子になに吹き込んだのよ!」

「なにも言ってねえよ。見たままの感想なんだろ。子供は素直だからな」

「言ってくれるじゃないのよ。相当しごかれたいみたいね」

「それより、面会はさせてくれるのか?」

「させて欲しいのなら、考えてやってもいいわ」

「させてくれ。頼む」

「即答なのね。まあいいわ。あとは私の気分次第ってことで。この子については検査してからあらためて考える」

「で、どこなんだ? その倉庫っていうのは」

「もともとキャジュが住む予定だった場所よ。ね?」


 キャジュはスクネにくっつかれて目を丸くしていた。拒絶はしていないみたいだった。むしろその表情からは歓迎の気持ちが滲み出てもいる。


「メイル、おかえり」

「ただいま。戻って早々悪いことをしてしまったな。俺のせいでせっかくの棲家をおあずけにさせてしまったみたいで」

「気にするな。そんなことよりも無事でいてくれて本当によかった。それとあの倉庫だが、風通しはいいしライダーの部屋のような不潔さもないからきっと快適に暮らせると思うぞ。お互いほんの少しの辛抱だ。あとで顔を出すよ」

「ああ、待ってる。それとキャジュ、この子のことだけど」

「スクネっていうんだろ。全部聞いていたさ。かなり信頼されているみたいだな」

「耳がいいんだな。それだったら話が早い。スクネのこと、頼んでもいいか?」

「私なんかでいいのか? ならば光栄だ。責任を持って預からせてもらうよ」


 会話を見ていたスクネがキャジュに微笑みかけていた。それに気づいた彼女も満面の笑みを返す。

 この二人なら、きっと大丈夫だろう。



 レインから拘束される場所を聞くと、そこは以前夜を明かした落ち着ける場所の近くだと分かった。

 俺は一人で行けることを告げて、彼らと別れた。


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