10-4
機械の顔を手に持ってにっこりと微笑むその顔がなんともいじらしく見える。
この光景は地球の人間が最も大切にしなければならないものとなにも変わっていなかった。
知らない星にも同じものがあることを知って、嬉しくならないわけがなかった。
「あら、キャジュったら、普通の女の子じゃない!? 驚いたわ。地球の人間とそっくり! カウザにはあなた達みたいな人がたくさんいるの?」
「たくさんではないと思う。あ、ありがとう」
キャジュはレインが持ってきた容器を両手で受け取って、中の液体を恐る恐る口に運んだ。熱かったのか目を閉じてすぐに容器を離す。
「苦い。でも、おいしい」
「そうでしょ。これで仲間が一人増えたわ。ね、メイル?」
なんとも割り切れない気持ちが腹の底から込み上げてきた。
とりあえず、決着は後回しにしようと思った。
「あの」
「どうしたの。やっぱりそれ、好きじゃない?」
「そうじゃない。今のうちにどうしても言っておきたいことがあるのだが」
「なに? なんでも言って。協力するわ」
「その前に、この機械を全部降ろしてしまいたい。手伝ってくれるか?」
「お安い御用よ。で、どうしたらいいの?」
「メイル」
「なんだ。俺がやるのか?」
「あなたには、見て欲しくないのだが」
どうやら彼女にとって全身の機械は服みたいなものらしかった。
要するに、脱いだ後を見られたくないのだそうだ。
「あら、あなた男として見られているわよ」
「う、うるせえよ!」
「心配しないで。あの子には黙っていてあげるから」
「い、いいから早くしろ。ほら、困ってるだろ」
「はいはい」
男には見られたくないということなので、俺はシンクライダーが眠っている寝台を仕切る幕の中に入って待つことにした。
穏やかな寝顔だった。爺さんの施術のおかげか痛みはほとんど感じていないように見える。
指でそっと触れると早くも骨がくっつきはじめていた。この調子なら後二、三日で歩けるくらいに回復するだろう。
「……はい、よいしょっと」
仕切りの外で空気が押し出されたような奇妙な音が鳴った。
「ねえメイルー」
「どうした」
「シンクの白衣の場所、どこだっけ?」
「なんで俺が知ってるんだよ!」
「うそ、知らないの? どうしましょう、絶対にあるはずなんだけどなあ。さあて、どこだったかなあ。うーん。ここじゃないし、あっちでもないし。あ、そうだ! きっとあそこだ。もうちょっと待ってて、必ず見つかるから。……えーと、この中に、あった! あったわ。メイルー、あったわよー」
「いちいち報告するな。とっととそれを着せろ!」
「あら、キャジュに着せることよく分かったわね。もしかして、覗いてる?」
「そんなん説明されんでも分かるわ。いいから早く着せてやれ! それと俺を使って遊ぶな!」
「……どう、しっかり隠せる?」
「このくらいなら十分だ」
「メイルー、こっち来てもいいわよー」
幕の外に出てみると床には黒光りした機械の部品が散乱していた。
大きすぎる白衣を纏ったキャジュは寝台に座りながら黒いやつを飲んでいる。袖が長すぎたのだろう、腕の部分はその長さに合わせて捲ってあった。
ただでさえ小さい身体がさらに縮小したように見える。レシュアを一回り小さくしたくらいだろうか。
年齢は、顔だけで判断すればかなり若いと思われる。
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