9-3
犬型に気づかれないように姿を隠す。内部は機械兵の残骸で山積みになっていたので身を隠すには丁度良かった。犬型は持ち帰ってきた残骸を無造作に下ろすとまた外に出て行った。
飛び込んだ部屋には残骸以外になにも置かれていなかった。どうやらここは保管することだけを目的とした空間のようだ。
出入り口を探すとすぐに見つかった。開け方が分からなかったので扉の近くを適当に弄ってみたら偶然に開けることができたので先へと進む。
扉を抜けるとそこには球体を感じさせる空間があった。
青白い光を反射する固い床は外壁の形に沿ってはおらず平面状に広がっている。
奥のほうには今出てきた部屋と同じ大きさの建物らしきものが三つあり、上部にはかなり大きな四角い部屋が二つ見えた。
球体内部の壁一面には人型と犬型の機械兵が隙間なくぶら下がっている。あれはおそらく動き出す前の状態の機械兵なのだろう。まるで死んでいるかのように首が垂れ下がっていた。
床の前方には見たことがない機械の塊が置かれていた。かなり大きなものが二つ、通路に向かい合うように配置されている。動いているようには見えない。
戦闘用ではなさそうだった。しかし気になったのでもっとよく観察してみると、複雑に絡み合った機械の中の一部分に唯一知っているものを発見した。
人型の胴体部分だった。手足がまだついていないことから察するに、どうやらこれは機械兵を製造、もしくは修理するものだと思った。
こうして機械兵が作られる状況を目の当たりにすると、異星文明カウザの存在がより鮮明に見えてくる感じがした。
彼らはこの星に降り立ち、なにかをしようとしている。そして私達はそれを止めようとしている。
自分達を守ろうという気持ちはカウザにもあるはずだ。その心の強さの形がこの大きな機械にも反映されているような気がして、なんだかやりきれない思いが込み上げてきた。
……ん? 小さな、とても小さな足音がする。
咄嗟に身を隠そうとしたが、素早く動こうとすればするほど固い床が音を立てて要塞内部に響いた。
これは場合によっては戦闘に発展するかもしれない。そう覚悟して両手を前方に構える。
その直後、大きな機械のさらに奥、六メートル程離れた先から見たことのない『人影』が出てきた。
……人型? いや、あれは女だ!?
人型の機械兵にしてはやけに小さく、手足は異様に細かった。
歩き方も従来の型とは全く異なっていて、機械にしてはやけにしなやかな動作をしている。
なんというか、とても女性らしい動きに見えた。
「……ゼ、イギュオンム、テイブォウィ……」
喋った。しかもこちらの存在を認めた上でなにかを言っている。
言語を発して交信するために作られた機械なのだろうか。
私は意を決して前進した。
足を前に出せば出すほど機械の形がはっきりと映り込んでくる。さっきは全身が黒くてよく分からなかったが、顔の上のあたりに動くものが見えた。
あれは、瞳だ。
「……チキュウジン、カ」
私達の星の言葉を話した。声色は女性のそれに聞こえる。
『機械』にしては不自然なつくりだと思った。あえて女の形にする理由があるのだろうか。
しかも彼らは私達が使う言語を学習している。彼らが現れてからの短期間にそれが可能だろうか。だとしたら私達はとんでもない文明を相手にしているのかもしれない。
どこまで理解しているのだろうか。それを確かめる方法は一つだった。
「あなたは、人ですか?」
返事は返ってこなかった。
聞き取れていないのかと思ってもう一度同じ質問をする。
すると相手は機械の手を私のほうに向けて、首を横に振った。
飛び込んでくるかもしれない。前方に掲げた両腕に力が入る。
「……ココハ、アナタタチガ、クルヨウナ、トコロ、デハナイ。カエルイシガ、ナイノナラ、テキト、ミナス」
「ちょっと待って。私の話を聞いて。あなた達はどうしてこんなものを作ったの? この星に来てなにをしようとしているの?」
「……ソレハ、イウコトガ、ユルサレテ、イナイ。スベテハ、アルジノ、カンガエノ、モトニアル。チキュウジン、シズカニシテイロ。スグニ、タチサル、ノダ」
「それでは駄目なの。お願い、もっと話をしてみよう。これ以上無駄な争いをしたくないの。お願い、私を信じて!」
「……テキト、ミナス」
壁一面に凭れかかっていた人型の幾つかが唸るような音を立てて動き出した。
突風で押されたみたいに壁から外れると、静かに降下して私を取り囲んだ。
「私は、戦いたくない!」
「ナカマハ、アノサキニ、イル。カエラナケレバ、アナタモ、ナカマト、オナジ、クルシミヲ、セオウ」
謎の女型機械が指を差したのは、上部に設置された大きな部屋の左側だった。
……レインとロルが、あそこにいる? 囚われてしまったのだろうか。
……それが事実なら、なおさら帰れない。
……機械兵を倒すしかないのか。他に方法はないのだろうか。
女機械兵は背を向けて飛び上がった。
それと同時に周りを囲む人型が近づいてくる。
やるしかなかった。あと少しで衝突を止められたかもしれないことを悔やみながら、私は00の集中を手の平に集めた。
来た。
十体以上。機械兵の動きはいつもと変わらない。
掴む捻る切る持つ掴む飛ばす捻る掴む切る切る持つ飛ばす掴む捻る飛ばす……。
さらに飛び込んでくる。あと、二十はある。
本当に無意味な作業だ。
これが全て壊れてもそこにある大きな機械の塊がまた作り直す。
……戦争とは、なんて虚しい作業なんだ。
掴む捻る切る飛ばす踏む捻る掴む飛ばす潜る掴む掴む捻る持つ飛ばす掴む……。
そして最後の一体が残る。
荒ぶる鼓動を片手で抑えながらもう片方で待つ。
これらの人型は誰も喋らなかった。そんなことを救いにしたくなかったが、そうでもしなければ今を保てなかった。
ここで集中を乱したらもう会えなくなる。なにかが私の中で狂いはじめた。
自分のしていることに迷いが芽生えはじめる、そんな予感だった。
……掴む捻る切る掴む捻る捻る捻る捻る捻る捻る、……切れる。
もう、下は見たくなかった。
レインとロルがいるかもしれない要塞上部の部屋を見つめる。
たぶんあそこにここの中心となるものがあるのだろう。
人でなければそれでいい。私の望みはその一点のみだった。
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