星芒戦記ディープスター・マーメイド

作者 機人レンジ

イノセンスが紡ぎだす、壮大な遊戯世界

  • ★★★ Excellent!!!

本作品の魅力の数々は、多くのレビュワーの方々が述べてくださっているので、当方は少し違った角度からこの作品について語ってみたいと思う。

「不死」という生命として一つの限界を超えた人類が活躍する、未来の宇宙が舞台の本作品。全編にわたって非常に丁寧に練り上げられ、かつ随所に冒険的なテーマをちりばめた、きわめて挑戦的な物語でもある。決してマイルドとはいえないSFジャンルならではの設定は、口当たりの良い文章表現によって、実に抵抗なく「読ませてくれる」。文芸作品としても相当なものだと感じる。
だが本作品の最大の魅力は、全編を通じて垣間見ることのできる「児戯」とでもいうべき、作者の遊び心にあるように思えてならない。ここではそれについて触れてみようと思う。

児戯――子供のいたずら、遊び、という意味の語句であるが、ここで使用するそれは、もちろん悪い意味ではない。それどころかむしろ本編をかなり高尚な階梯に引き上げている大きな要素とさえ感じる。

先述したように、本作品世界の根底を形作っているのは、「不死設定」である。これによって、作者はおろか作中人物たちは容赦なく人体破壊をし、時にはそれを楽しむような描写まであり、まったく文章でしか表しえない一種独特の世界を作り上げている。タブーへの挑戦でもある。
これを素晴らしいととるか、悪趣味だととるかは読み手の自由ではあるが、この「作者自らがぶち壊してゆく精神」こそ、ここで語りたい「児戯」のそれなのである。

誰もが子供のころ体験したのではなかろうか。
頑張って作り上げた砂場のお城を、完成と同時にぶち壊すような遊び…。
泥団子でもいい。手塩にかけて固め、磨き上げた団子を、完成と同時に地面や壁に叩きつけて破壊するあの快感…。
ちょっと世代の進んだ方ならば、キャラクターのプラモデルを、仕上げた次の瞬間に爆竹で吹っ飛ばしたりする遊びをした方もおられるのではないかと思う。

そう――ここでいう「完成」は、作ったものを壊した先にこそあるのだ。
壊すために作るのか? と問われればまさしくYesである。
それは極めて純粋無垢な、「楽しむ」という行為の到達点である。この世界設定が、はたして作者が意図してくみ上げたものかは、一読者に過ぎない当方にはわからない。が、作品を通じて伝わってくる心が浮き立つような楽しさは、まさしく幼少期に感じた「あの感覚」そのものなのである。

さらに付け加えるならば、本作品の極めて秀逸な点は、ともすれば「独りよがり」に陥りがちなその児戯性を、「物語」という形で普遍化させている事だ。これはもうすでに多くのレビューや応援、★が付いていることが何よりの証明だろう。
はっきり言って、かなり過激な描写も多い本作品だが――タグの「万人向け」は決して嘘ではない。誰もがかつて通ってきた、あのころの気持ちにかえらせてくれる「何か」がある。架空の未来社会は、おのれの内なるノスタルジアへと帰結するのだ。これを「面白い」と言わずして、なんといおうか。

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