Round.06 フィラディルフィア/Phase.4
「ユードラ様すいません、お借りしてよろしいですか?」
「ああ、契約書? カノエ様はまだですもんね」
後ろから別の女性が声をかけてきた。こちらは見覚えのない人物であった。
「初めまして、カノエ様。副長のユーリ=レドブランシュです」
「ミクモ=カノエです。よろしくお願いします」
「早速ですけども、二三、書類への署名をお願いしたいのですが……」
「契約書というのは?」
「はい。自治権を持つヘルムヘッダーとの雇用契約は少々ややこしいので、業務提携の形になります。カノエ様の身元を保証する意味で悪い話ではないですよ。報酬もしっかり出します」
【あたしはいいの?】
「すみません。アトマさんは書類上、ジルヴァラのストラコア扱いですから……」
【なんだ残念】
「いつか
ユーリの説明を受けつつ、カノエはタブレットに表示された書類へサインをした。署名を確認するとユーリは手を挙げてセラエノを呼ぶ。
「船長終わりました。これでカノエ君――あ、いえ、カノエ様とジルヴァラ、それにアトマさんは正式にうちの契約艦ということになります」
「はーい……カノエ君、ユーリのことは思い出さない? 実は初めましてじゃないよ?」
呼ばれたセラエノが悪い顔をして聞いた。
横では、それを聞いたユーリが困って照れたような顔を見せる。
「ユーリさんも遠野ミストに居たの? え、誰だろ……」
記憶を手繰るが、どうにもイメージの合致する人物が思い当たらない。
「んふふ、
セラエノの言葉に、カノエはたっぷり三秒フリーズして、
「ええええ!?」
と声を上げた。
「――……マジですか?」
振り返って見ると、ユーリは少し照れながら、
「そうですよ。いいじゃないですか。ゲームのキャラクターぐらい」
と、不服そうに答えた。
「えと……よろしくお願いしますアカネさん。様はくすぐったいんで、遠野ミストの時みたいに、君付でいいですよ」
「わかりました。それでは、これからはユーリでお願いしますカノエ君」
「はい。よろしく、ユーリさん」
少しぎこちなくユーリと握手していると、後ろから声が掛かる。
「これで挨拶は大体済んだかな?」
見渡すと皆がカノエの方を見ていた。過去を失ったカノエにとって、ここにいる人たちが今ある全てと言える。それでも孤独ではなかった。
一先ずはそれで良しとしよう。そう、心を決めた。
【どしたの?】
「何でもない」
【変なの】
晴れ晴れとしたカノエの表情を見て、妖精は不思議そうに囁く。
「さて、それじゃあカノエ君――」
スクリーンに映る蒼い惑星レンドラを背にセラエノは両手を広げ、満面の笑みを送りながら、
「――ようこそ、
それを合図に、ブリッジクルーの隠し持っていたクラッカーが盛大にカノエを祝福した。
The SterShipCruiserS 中村雨 @takatouhiziri
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