後日談短編11:パパとママの馴れ初め

「お義母さん、本当に手作りお菓子が上手だな」

嫁がクッキーに目がないと聞いてから、皇太后は時折遊びにくる嫁のためによくクッキーを焼くようになった。特にチョコレートクッキーが好きなようで、無意識なのだろうが一番減りが速い。最近はチョコレートクッキーにバリエーションをつけ、デザインにも凝っていた。美味しく食べてくれる嫁のおかげで、腕が一段と上がったような気がする。


「ふふ……。息子は甘い物がそんなに好きじゃないから。ショウタくんが美味しそうに食べてくれると作り甲斐があるよ」

皇太后は今年で50になるはずだが、言われなければもっと若く見える。涼し気な目元が特に上品に映った。

「実は実家は小さなお店をやっていてね、よくお菓子を作ってたんだ。クッキーはこっちの国に来て初めて知ったんだけど、作り方を教わって、初めて里帰りしたときは両親にも食べさせた」

そう言って柔らかく微笑む皇太后も、当然外国人である。蝶国よりも更に南の、海の島からやって来たのだそうだ。


「お義父さんとはどうやって知り合ったの?」

「あの人がうちの島に視察に来た時、一目惚れされちゃったんだ。そっから先はもうすっごく強引でね、無理やり連れて来られて結婚式あげちゃって。でも南国出身の僕が最初に経験した冬でダウンしちゃった時は、ほんとに反省してたよ?」

まるで昨日のように思い出せるのだろう。皇太后は懐かしそうに目を細めた。


今でこそ穏やかに過ごしているが、皇太后は体が弱く、ファロを産んだ時は命が危ぶまれたそうだ。それからはもう子どもをつくらないと固く決心した上皇は、ファロを唯一の後継者として、厳しく育てたと聞いている。

そしてファロが30になったときに第一線からきっぱりと退いて、今はこの離宮で皇太后と穏やかに暮らしていた。周り曰く、「あの人の頭の中には皇太后しかいない」のだそう。


「おお、来ておったのか、ショウタ」

噂をすれば何とやらで、ちょうど上皇が庭のテラスに通りがかった。今は剣でさえも身に帯びず、軍服も脱ぎ捨てているが、昔は近隣国一帯を震え上がらせたやり手の恐皇だったと聞いている。

「お前ばかり嫁と楽しみおって。何故わしに声をかけんのだ」

「気持ちよさそうに昼寝をしていたものですから」

拗ねて不貞腐れている上皇の姿に、皇太后はクスクス笑って手招きした。使用人にもう一つ茶器を用意させ、上皇にも紅茶を入れてやる。


「どうだショウタ、息子にいじめられておらんか?あいつはわしに似てプライドが高いからな」

「いえっ、ほんとに良くしてもらってますっ」

「遠慮せんでいい。しかしやっぱり一人っ子というのは我が儘に育つからな。ショウタのような強い嫁が来てくれて良かった。ショウタは是非たくさん孫を産んでくれ」

自分の息子なのに酷い言いようである。しかしこの忌憚のない語り口が蝶の一族の良さでもあると知っているので、皇太后もショウタも特に気に留めない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます