後日談短編8:お月見

ショウタが外国から嫁に来て一番戸惑うのが文化の違いだ。

「えっ!?蝶国じゃお月見やんないの!?もうすぐ一年で一番大きな月が見えるのに」


そして夫であるファロとの感性の違いだ。

「月なんて一年中満ちたり欠けたりするもんだろう。わざわざ見るほどのものでもない」


アオとはいつも共感できる。

「アルルの森では月が見れたらラッキーなんですよ」


しかし部下のカインともやはり育ちが違う。

「まぁそういう時間があったら剣を振ってる方が楽しいからな」


アルルで唯一月が見えるのは集会所周辺だ。そこだけ原生林がぽっかりなくなって、ちょっとした広場になっている。しかし空全体が見えるわけでもないので、月が見える時間帯はやはり限られていた。月見の日は大体夜10~11時くらいに中天に月がやってくる。だから夜7時くらいから集まって、みんなで酒や踊りや料理を嗜み、村人みんなで月を楽しむのだ。小さい子供やお年寄り以外みんな集まるので、集会所の周辺は人でいっぱいになる。


「なぁ、やろうよ、お月見!俺蝶国の名月も見たいよ!お団子とかは俺たちで用意するからさ」

ね、ね、とおねだりされると、頼まれる前からやってやろうと思っていたのに、ちょっと意地悪がしてみたくなる。

「じゃあ、お前の舞を見せてくれるか?」

「え、俺でいいの?女じゃないけど」

お月見でメインに踊るのは族長一家の若い女である。しかし男女ペアで踊る踊りもあるので、ショウタは嫁入り前の姉の相手役として何度か踊ったことがある。男衆の役割は大体笛か太古だ。

「ショウタが踊ってくれるなら何でもいい。踊ってくれないならお月見はやらん」

「へへ、しょうがねぇな。旦那のために一肌脱いでやっか!」


旦那の我が儘を物ともせず、早速段取りを考えているショウタを横目で見ながら、相変わらず騙されやすい人だなと、アオはため息を吐いた。



「お団子よし、酒よし、笛よし、衣装よし!全部よし!」

指さし確認で準備を整えたショウタは、今アルルの民族衣装を着ている。アルルでは蔦を組み合わせて服を編み、それに染め物をしたり絵柄を書き込んだりして装飾にする。通常服に飾りは付けないが、舞を踊るときは手足に稲でつくった房を付ける。頭には細いしめ縄でできた輪を被り、動物を象徴とした墨絵を顔に描く。せっかく蝶国に来たので、今回は蝶のデザインをアオと描き合いっこした。

簡素な造りなので、蔦と染料を入手して手作りした。アルルでは服が破れるなど日常茶飯事なので、子どもの頃から自分の服は自分で作るように訓練されている。このお月見のためにも、一週間ほどでアオと衣装を用意した。


準備が完成して、国王と近衛隊長のカインが入って来た。民族衣装を着ているショウタを見て、ファロは感激に打ち震える。

「な、な、なんて愛らしい……ショウっぐぇ」

ショウタに抱きつこうとした所を、カインが首根っこを掴んで引き留めた。

「せっかくの月見が台無しになるでしょうが」

「き、貴様……」

不穏な空気が流れていることに全く気付かず、ショウタが二人を手招きする。

「さーさーどうぞこちらへ……って、アベルさんは?」

「所要だ」

本当は残業を押し付けてきたのだが、それは内緒である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます