後日談短編5:護衛兵のぼやき

早朝。そろそろ調理場に人が入るか、入らないかという時間帯。まだ薄闇で、明かりがなければお互いの顔もよく見えないという頃、ふいに王の寝室のドアが開いた。

「あ、朝早くからごくろーさん」

バスローブを着崩した姿て出て来たのは、妃に当たるショウタである。みんなから皇后陛下と呼ばれるのが嫌いな彼は、みんなからショウタ様とか、ショウタさんとか、ショウタ殿と呼ばれていた。

「今来たとこ?」

「は、はい!今出勤して参りました!」

突然のことに冷や汗を流しつつ、何とか受け応える。

「そっか、ありがとね」

まだ覚醒していないのだろう。大きな欠伸を一つすると、ぽやぽや歩きながら厠の方へ向かって行く。どうやら不審には思われなかったようだ。

「おい、お前護衛しろ」

「わ、分かった」

一晩中見張りをしていた相方に声をかけると、相方は慌ててショウタの後を付いて行く。


しかし危なかった。勿論今出勤してきたというのは嘘で、昨晩からずっと護衛していた。ショウタの閨の甘い声もバッチリ聞いていた。しかし夜もずっと護衛が付いているというのは、ショウタに対して極秘事項になっているので、本人にバレてはならない。どうやら今回はセーフのようだった。

「気を付けないと……」

ショウタが拗ねて閨を拒否したら、自分たちの血が流れのは必然だろう。

護衛兵は知らないうちに額にかいていた汗を、そっと腕で拭ったのだった。



番をするのは寝室前だけではない。食事の席だって目を光らせている。蝶の一族は毒に強いが、万が一ということもある。食事の席で怪しい動きをする者がいないか見張るのも、大切なお役目だ。


「ちょっと、ファロ!恥ずかしいだろ!1人で座らせろって……」

赤い顔でもじもじと身を捩っているのは、件のショウタである。今はファロの膝の上に座らせられて、あーんまでさせられていた。

「いいじゃねぇか。朝はお前が二度寝したから一緒に食えなかったんだ」

「そ、それは……お前が昨日しつこかったから……」

「またバテられちゃつまらないからな。俺が食わせてやる」

というのは格好付けで、本当は自分が甘やかしたいに違いない。


「ほら、お前この料理好きじゃねぇか。たくさん食え」

「むぐっ……もぐもぐ」

ショウタは最早諦め顔で、なされるがままになっている。賢明な判断かもしれない。抵抗しても余計な体力を使うだけだ。

「ちっ……また夜まで離れ離れか……」

「うん、ファロ、お仕事頑張って!仕事してるファロ、俺好きだよ!」

よくできた嫁は、夫を持ち上げるのも上手い。

感激したファロ王は、先ほどまでチキングリルを頬張っていた唇に吸い付いた。

「……っふ……」

危うく第一ラウンドが始まってしまいそうだったが、運よくアベルが訪ねて来て、そのままファロ王を執務室まで連行したため、ことなきを得た。

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