後日談短編3:ショウタの冒険2

「よっと……」

ショウタとアオは危なげなくカーテンを滑り降りた。アルルの原生林で木登り中心の生活をしていた彼らにとって、これは目を瞑ってたってできる。

この様子を茂みからハラハラと見つめている護衛兵がいるとは知らずに。

「よし、出発だ、アオ」

今ショウタはいつもの妃用の召し物から、乗馬するときに着る軽装に着替えている。滅多に着られるものでもないので、この愛らしい姿を見たらあの熱血男が泣いて喜びそうなものだ。



ショウタが真っ先に向かったのは厩うまやだった。アルルでは馬を使うことはまずなく、長距離移動手段は鹿である。馬は役人が調査などに訪れるとき偶に見かけるが、蝶の国で主流の軍馬は一頭も目にしたことがなかった。

「うっはー、でっけぇ……。迫力あるなぁ……」

戦闘用の軍馬がこうもずらりと並んでいるのを見ると、いくら檻に繋がれているからと言って、腰を抜かしそうである。触ってみたい気もするが、ちょっと勇気が出ない。


「これはこれは、王妃様。こんなところで奇遇ですねぇ。せっかくですからお乗せしましょうか」

厩番の兵士が、今初めて気が付いた体で話かけてくる。ものすっごく胡散臭い話しかけ方に、アオは内心「もうちょっと何とかならんのか」と突っ込んだ。しかしどこまでも純粋なショウタは全く気付いていない。

「いいんですか!?あ、でも俺乗り方分かんないし……」

軍馬はちょっと恐い。

「ご安心下さい。ここに仔馬がおりますから」

いっそ不自然なほどにタイミング良く、仔馬が馬具を付けられて引かれてきた。

「わ、やったー!アオも乗ろう!」

「ええ」

背後に働く力に全く気付かずに、できすぎた「冒険」を楽しむショウタに、アオはやっぱりため息を吐いた。


「いやー、満足満足!」

その後、ショウタは兵士たちが訓練をする修練場を回り、運よく手合わせを見ることができた。そしてファロの両親が住む上皇の御殿に遊びに行き、たまたま皇太后が焼いていたというお菓子をいただいた。宝物庫に行くと鍵が開けられており、偶然居合わせた鑑定士に宝物の解説まで聞かせてもらった。

「今日の俺たちはついてるな!」

「そうですね」

これら全部も「ついてる」で片付けられる幸せな男に、最早何も言うまい。


「じゃあ帰るか、アオ」

「「「え!?」」」

アオだけでなく、草むらや壁の影からも声が飛んだが、上手くアオの声に被さったので何とか気づかれなかった。

「もう帰るんですか!?まだ、行ってないとこありませんか!?ほら、陛下の執務室とか……」

アオのフォローに、護衛兵がこっそりうんうんと頷く。

「何言ってんだよ。あそこはいつも行ってるだろ。冒険になんないじゃんか」

さすがに血の気が引いて身動きの取れないアオと護衛兵を置いて、ショウタはスタスタと歩き始める。


「い、いえ、ちょっとお待ちください。せめて最後に陛下にちらっと顔でも見せないと、夜に……いや、後で後悔するのはショウタ殿ですよ!」

「いやー、もうすぐ夕食時だし?すぐ会うから大丈夫だよ」

アオの必至の制止もどこ吹く風である。

背後の護衛兵に至っては、陛下に何と報告していいか分からなかった。あの嫉妬深い王のことだから、『なにっ!?俺がショウタに丸一日会えなかったというのに、お前らは一日一緒だったのか!?ふざけんな!腹筋と背筋500回やれ!!』とか言われそうである。護衛兵たちは遠い目でショウタとアオを見送るしかなかった。

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