後日談短編2:幸せにする作戦2

「よし、完璧だな、アオ」

夫婦の寝室には、今やバラが散りばめられていた。茎にはトゲがあるので、花の部分と花びらだけにしてある。このバラも、仕入れたのを自分たちでばらしたのだ。やはりプレゼントは手作りに限る。

そしてテーブルにはファロの好きな銘柄のワインと、手作りしたお菓子が置いてある。ワインボトルの側には、「愛してるよ」というカード付きだ。


「これで俺が『いつもありがとう、ファロ。愛してるぜ』って言ってほっぺにちゅーすればなお完璧だな」

「そうですね、その隙があればですが」

本当は、ショウタは思いついたが吉日の勢いで、すぐに行動に出ようとした。でもアオが止めた。表向きの理由は、手間暇かけたサプライズの方が相手の感動が大きいということだが、実際には自制心のない王にすぐにベッドに連れ去られて、ショウタの気持ちを無駄にしないためである。


「よし、じゃあアオ、ファロを呼んできてくれ!」

ファロの仕事はもう終わっているはずだ。

「……ご検討を祈ります……」

果たしてあの王様は何分忍耐できるだろうか。嫌な予感にげんなりする。

しかしショウタは危機感のきの字もなく、無邪気にはしゃいでいた。




「……こ、れは……」

よしよし、ファロは驚いている!計画通りだ。

仕事を終えて部屋に引き上げてきたファロは、我が目を疑った。バラ、薔薇、ばら……一面バラの花だらけ。上品なテーブルクロスがかけられた上には、ファロの好きなワインと、手作りらしき焼き菓子がある。

ワインボトルにぶら下がったカードを手繰り寄せると、「愛してる」と書いてあった。


「これは、俺のために?」

「そーだよ!俺今日、自分は幸せだなーって思ってたんだけど、そしたら俺は全然ファロのこと幸せにしてないなって思って。俺、あんたを幸せにするって約束したのにさ」

先日からかわれる切っ掛けにもなった、出会いの時の約束を思い出したのだろう。

その心意気がじーんと染み渡った。なんてよくできた嫁だろうか。正直一面のバラはドン引きだったのだが、手づくりのワインとお菓子とカードは上出来である。アルルでショウタがモテモテだったというのは本当なのだろう。天然のタラシだ。


「俺はもう十分幸せにしてもらってる。これ以上幸せにされたら死んじゃうくらいにな」

ファロはショウタを抱き寄せた。その腕の中に大人しく収まったショウタは、「死んじゃうのは困るなー」と能天気に笑っている。

ああ、なんて可愛い生き物なんだろうか。もうこれは据え膳というやつじゃないだろうか。そしたらもうこれは美味しくいただいてしまってもいいんじゃないだろうか。


ファロがさりげなく厭らしい手を伸ばそうとしたとき、ショウタが腕からがばっと離れた。

「さ、さ、座ってよ。ワイン開けるからさ!このお菓子、今日コックさんたちに教えてもらって作ったから、ぜってー美味しいよ」

そうやってにこにこ椅子を勧められてしまうと、さすがのファロも座らないわけにはいかない。ショウタの手作りお菓子が食べられるのはとっても嬉しいのだが、ちょっと残念な気もしてしまう。

複雑なファロの心境はものともせず、ショウタはいい音を立ててコルクを抜いた。つい先日成人したので、ショウタも飲むことができる。

「じゃ、乾杯!」

「乾杯」


そう言えばショウタと二人切りでお酒を飲むのは初めてかもしれない。

結婚式と成人の祝いでは酒を飲んでいたような気がするが、酔うほどまでは飲んでいなかった。晩餐のときは、ショウタは酒を飲まない。

ショウタが酔ったらどうなるだろうかという好奇心がむくむくと沸き上がった。ファロは下心を抱きつつ、ショウタを酔わせることに専念したのだった。

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