第22話

「よくお似合いです。陛下が見たら惚れ直すこと間違いなしですね」

結婚式の朝、アオが整えてくれたアルルの装束を着させてもらい、ショウタは準備を整えた。でも

「なんで女物なんだよ……」

何故か花嫁装束だった。これは本来女性が着るものである。

単衣の後ろの裾を、かなり余らせて後ろに垂れ流し、外掛けにも単衣にも、豪華な染め物や刺しゅうを施す。通常アルルでは花嫁が婿を迎えるというしきたりなので、着物には家族に代々伝えられてきた動物の文様を入れるのだが、今回はショウタが輿入れするためか、着物には蝶の刺繍が入っていた。

着物に加え、本来であれば白無垢を被る。しかし族長一家の結婚式に限っては、族長一家の白い髪を強調するために、被り物はしない。代わりに髪を豊かに結い上げる。だから慣例として、嫁入り前の族長の子は髪を切らず、長く伸ばしているのだ。


「男物の衣装は地味なので、見栄えしないと思いましたから」

結婚式の主役はあくまでも女性、というのがアルルの風習である。男性は女性より目立ってしまわないように、長衣も袴も外掛けも、緑や茶色などの単色に染め上げる。そうすると、豪勢に準備された蝶国のお披露目に相応しくないということになるのだ。

女物というのは複雑だが、この衣装を整えるのはかなり大変だったはずだから、文句をなんとか飲み込む。絹糸を織り合わせ、染色を繰り返していく結婚式の衣装は、破れればすぐ作り直せる普段着とは違うのだ。


「でもショウタ殿、ちゃんとクナイを収納したので、そこは少し男らしいですよ」

アルルでは結婚式の時に、新郎が新婦に送るために鹿狩りをするのだ。そのためのクナイを新郎は着物の裏に隠し持っていて、式が終わると共に飛び出していき、鹿を持ち帰って祝いの晩餐になるのである。

そんな見えないところだけ男らしくされても、と思うが、アオの粋な計らいである。ここは黙ってありがたく受け取ることにする。


「ありがとな、アオ。……帰りに鹿でも刈ってくるよ」

思えばアルルを出て三か月、蝶国に来て二か月半の生活が守られたのは、アオのお陰である。付いてきたいというアオを拒み続け、自分一人で蝶国に来ようとしていたが、今はアオが一緒に来てくれたことに心から感謝しているのだ。これは本当に鹿でも御馳走してやらなければならないかもしれない。


しかし、願わくばこのクナイが活躍の場を見せずに式が終わって欲しい。結局、昨日刺客として寝所の隣の部屋にまで侵入した男は、他国人だった。披露目が開かれることと何か関係した筋の者かと思ったが、刺客の男は口を割らず、だんまりを決め込んでいるらしい。

披露目までは間に合わなかったが、すぐにどこの筋かも明らかになるだろうということだった。

『すぐに……って、拷問でもするつもり?』

『これが蝶国の人間だったら腕や足でも切り落として拷問するところだが……他国人だったからな。今ごろモノ好きな兵士の一人が尋問しているだろうから、時間の問題だ。その後はその兵士のモノになるなり、どっかに引き渡されるなりするだろう』

ようするにベッドで揺さぶって、快楽による拷問刑にかけているらしい。

日々愛されている身としては、蝶国人の並々ならぬ性欲のはけ口にされている刺客に少し同情する。しかしこちらも侵入されて不快な目に遭っているので、好きにさせておくことにした。


「さ、そろそろ行きましょう」

昨日の事件を思いめぐらしていると、アオが急かしてきた。

馬車が庭に整えられている。護衛の近衛隊が整列しているのが見えた。いよいよ神殿に向かうのである。

神殿行事は貴族と王族だけの神事だということで、アオはしばらく城でお留守番だ。


「祝福を祈ります」

「うん、行ってきます」


神殿までアオもファロもいないということに不安を覚えながらも、ショウタは神殿を目指して出発したのだった。




違和感はすぐにやってきた。街を出た辺りで、何となく馬車がスピードをあげ、本来単純な道をあえて遠回りしたような気がしていた。

速度が上がったり下がったりし、右や左にふらふらする。油断していると舌を噛みそうになり、何かがおかしいと思った。

「カインっ、どうした!?」

「……つけられてる!」

すぐ隣を並走するカインが、自慢の軍馬の上から叫ぶ。馬車を囲むようにして配備されていた近衛隊の隊員が何人かいなくなっており、つけられているだけでなく戦いに発展していることを悟った。


「くそ……」

「おわわっ」

突然馬車が止まった。興奮した馬のいななきが聞こえる。前方を見ると、何人かの外国の兵士が立ちはだかったいるのが見えた。

「……囲まれたな。おチビちゃんはそこから出るな」

カインが剣を抜いた。

後方を見やると、思った以上に大勢の兵士が来ていたことを知る。所詮は外国の人間、蝶の一族の戦闘力には敵わないが、多勢に無勢であるため、手こずっていた。


「こりゃあ、例の狸の国の兵士だぜ」

馬車に近付こうとする敵をなぎ倒し、カインはショウタの盾となる。

カインいわく、これは人質を送ることを渋っていた隣国の兵士らしい。人質を送ることをごねているかと思いきや、陰でこのお披露目を妨害する企てをしていたということだ。

「おチビちゃん、ここは危険だ。森まで走るぞ」

「うん」

見晴らしのいい草原でたたずんでいれば、ショウタの居所は一発で分かってしまう。森を走り抜けて神殿まで辿り着ければ、王直属の兵群と合流できる。


「アオ、ごめん」

ショウタは躊躇いなく太ももから下の裾を破り捨てた。走り逃げるのに、花嫁装束は邪魔になる。せっかく作ってもらったものだが、外掛けも脱ぎ捨てた。

「行くぞ!」

カインの号令と共にショウタは走った。もう森は目と鼻の先である。

しかし敵が多い。この日のために、隣国は本気で兵を準備してきたのだ。

「悪い、ちびちゃん、先行け!後から追いつく!」

後続の敵に対峙するため、カインが先にショウタを逃がした。

後ろ髪をひかれながらも、自分がいては足を引っ張ると思って、振り返らずに森まで走る。

「みんな、無事で……っ」

祈ることしかできないが、ここはみんなの戦闘能力を信頼する。

ショウタは森の木に飛びつき、神殿を目指して、木から木へと駆け抜けた。

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