第18話
「なんか、恥ずかしいな……」
寝室でファロの帰りを待つのが、こんなにも、もぞもぞとくすぐったいことだったのか。この一か月、抱かれない夜なんてなかった。ファロが仕事で遅くなったときだって、真夜中に起こされて体を繋げて眠っていた。今更恥じらうことなんて何もないはずなのに。
ファロが自分にプロポーズして、それを自分が受けたことだって信じがたかった。蝶国では結婚式をあげないから、もう既に自分は妃なのだと言われた。人質という立場から突然一国の皇后になってしまい、まだ実感が湧かずに戸惑っている。
アオに確認したら、今アオはショウタの花嫁衣裳を作っていることをあっさり認めた。黙っていたのは隠していたわけではなく、とっくにショウタが承知したものと思っていたらしい。お披露目のとき、妻は自分の国の民族衣装を着るのが常だそうで、アオはアルルの花嫁衣裳を作成中なのだと言う。
花嫁衣裳はあと一か月ほどでできるということで、ショウタが成人を迎える一か月半後の誕生日にお披露目が決まった。お披露目の日はまず神殿に行って神に結婚の挨拶をし、それから王宮のテラスで国民に顔合わせをするのだという。神殿ではゆかりある貴族たちが招待され、テラスでは主に庶民が、地区ごとに入れ替わり立ち代わり参賀するのだそうだ。
ショウタの成人のめでたい席でもあることから、大層豪華なパーティーを計画しているらしい。最近仲良くなった料理人たちもすっかりはりきっていた。
「ええっと、おおばあちゃん、ばあちゃん、母さん、姉ちゃんたち、村の皆さま。この度無事に国王陛下と結婚することになりました……と」
残念ながら蝶国は女性が入国できず、アルルでは国の代表と言えば女なので、お披露目の立ち合いは敵わないだろう。
「里帰りは……三年後くらいになるかもしれません、と」
妃は跡取りを出産するまで、他国に出国できないのだと聞いた。アルルにしばらく帰れないのは寂しいが、帰らせてもらえるだけありがたいと考えなおす。
今更ながら自分が国王の妻となって、跡取りを出産することまで想定していることに恥ずかしくなる。こちらは男しかいないので、いつの間にか当たり前になってしまったが、アルルからすれば随分とぶっ飛んだ内容の手紙になってしまった。しかし良い報告ができるのだから、それはありがたいと思う。家族もきっと安心するだろう。
手紙に封をしているところで、ファロが帰ってきた。お披露目のために本格的に動き出しているらしく、招待状を出したりお披露目の段取りを考えたり、忙しくなってきているらしい。ベッドに腰掛けてベッドサイドの引き出しに手紙を入れると、待ちきれないと言うように口づけられた。自分よりも大きな口から舌が伸びてきて、我が物顔で口の中を探られる。酸欠に頭がぼーっとしてきたところで離されて、そのままベッド上に引き倒された。
「……お帰りくらい言わせろよ」
「……ただいま」
言い慣れていない短い言葉をかけると、ファロは気まずそうに視線をそらした。これが照れたときのしぐさであることは、この一か月で学んでいる。
「ん、お帰り」
そう言って微笑むと、ファロがバスローブの合わせ目をほどいて、首筋に舌を這わせてきた。くすぐったい感触が広がって肩をすくめると、今度は唇が鎖骨に降りてくる。
「……不思議な感覚だ」
ぼそっと呟くファロの手は、止まることなく動く。胸の尖りを擦られて、じんわりと快感がわいてくる。
「……っ……何が?」
「自分が結婚して妻帯者になったことだな。しかも、子どもまでつくろうとしている」
何も言わずとも同じような気持ちでいたことを聞き、ショウタはちょっとおかしくなった。今まで当たり前のように独身者だったのが、この一か月で一生涯
連れ合う相手に出会ってしまうなんて。
「……っあ、俺も……男のあんたと、こーゆーことしようとしてる、っなんて、な」
あまつさえ、この男の子を産もうというのだから、自分も随分変わってしまったことを自覚する。
「ガキは面倒だと思っていたが、お前の子なら見てみたいと思った」
幸せだな、と思う。好きになった相手と交われるなら。
ファロがサイドボードから香油のツボを取り出すと、ショウタは自分から足を開いた。今までだったら恥ずかしくてできなかったことも、プロポーズを受けて妻になったことを思うと、積極的にしようという気になる。
優しい目で見つめてくるファロの視線が恥ずかしくて、顔を背けようとしたら顎を押さえられた。そのまままた口づけられて、恥ずかしさが消える代わりに頭がぼんやりする。ぬめりをまとった指が押し当てられると、無意識に力を抜いた。
「は、ぁ……」
息を吐き出すときに指が入りこんでくる。意志をもって中を探られると、どうしようもない切なさがこみあげてくる。しかし十分にならさなければ気持ち良くなれないので、もどかしい気持ちをぐっと我慢した。
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