第6話

正面を見上げると、玉座にはこれ以上相応しい人はいないのではないかというくらい、威厳のある人物が腰かけていた。髪と目が黒く、肌が褐色であるというのは蝶国共通の容姿だが、肩幅が広く、軍服を着ていても分かるくらいにしっかりとした筋肉がついている。腕も脚も長く、先ほどは大きすぎると感じた玉座が、彼にピッタリと嵌っていた。切れ長の瞳ははっきりとした意志をもってショウタを見返している。

その顔があまりにもよく見知った顔だったから、一瞬で頭が真っ白になった。


「ファロ……」

十日間寝食を共にした旅仲間だ。見間違えるはずはない。しかし、なぜファロが玉座に腰掛けているのか。いや、もし彼が皇帝だと言うのなら、なぜ彼はアルルまで来て、たった四人の護衛と旅をしていたというのか。

「ああ」

気まずそうに流される視線に、少し冷静さが戻った。なるほど、だから近衛隊長のカインがずっと彼に敬語を使っていたわけだ。

ファロはカインの直属の上司……つまり、国王ということだ。


「お前、王様だったのかよ……じゃなくて、……だったんです、ね?」

心なしか両サイドのご老人たちの目線がきつくなった気がして、慌てて使い慣れない語尾を付け足した。ファロが手で合図して許可してくれるので、構わずに言い募る。

「なんで言わなかったんだよ……」

そうしたら、もし国王に気に入られなかったらなんて話、本人に振らなかったのに。

というか、知らなかったとはいえ、自分は道中ファロに怒鳴りつけたり偉そうな態度をとったり、散々なことをしてきたような気がする。

すると芋づる式にあれやこれやの思い出がこっ恥ずかしくなってきて、もっとなじってやりたい気持ちが急速に引っ込んでいった。代わりに込み上げてきたのは穴があったら入りたいという気恥ずかしさである。


「拗ねるな」

一人で赤くなったり青くなったりしていると、ファロがくすっと笑って見降ろしてきた。

「拗ねてない」

恥ずかしいだけだ。ムキになって言ってみると、ファロがちょっと困った顔をする。そのことに溜飲が下がって、少し強気になった。

「おい、どこに行く」

「部屋で休むんだよ。長旅で疲れたし」

くるっと勝手に背を向けて、アオを伴って退場しようとした。もっと一緒に話そうと思っていたのだろうが、ざまぁ見ろ。人を騙した罪は重いのだ。

唖然とする会場を颯爽と横切って、なんだかスカッとした気持ちになった。ファロが国王だというなら、ご機嫌をとろうとしたって今更な話だ。

そう思うとなんだか気持ちが楽になり、せめて身の振りが決まるまで自由に過ごしてやろうという気になってくる。

「大広間に食事を用意させるから、あとで来い」

だからそう投げかけられた言葉には、応じてやろうという気に少しなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます