第112話

「いや、最初は「あの」綾鷹がって驚いたわけだが――満場一致! 先生も公認でこうして来たってわけよ!」

「そうだぜ兼代! 安心しろよ!」


 別の男。飯田が、ヒトガタに関節技をかけながら言う。


「俺達も戦うのは最初とジョグとかいうのとで、三回目だ! ハッハッハ―、もう負ける気がしねえ! 密かに猛特訓を積んでたからな!」

「そういうことだ! 相手をぶちのめせねえ武術に意味はねえ! 俺の気功が火を噴くぜ!」

「……拙者の忍術も、烈火の如く」

「俺様のジークンドーを舐めんじゃねえーー!」

「読書とプラモ造りを組み合わせた全く新しい拳法を受けよ!」

「お前ら何なのマジで!? 世紀末の住人なの!?」

「そのツッコミが出来りゃあまだ元気だな!」


 相田が兼代の肩を叩く。


「俺達に出来るのは生憎と抑えることだけだ! あのデカいおっさんは頼むぞ!」

「ったく、勝手だなお前ら……」


 女性陣の方でも、雄々しい歓声が上がっていた。


「リッチーちゃん、大丈夫!? すっごいぐったりしてるけど!」

「皆さん、来てくれたんですね」


 陸前の新たな友人達が彼女に声をかける。


「応とも! 何せ、最近話題のクラスの子が4人もいないんだから! そりゃ何かあると思うわよ!」

「私の習得した裏秘伝・滅撃流を生かせるのはこの時くらいしかないしねえ」

「ウルッシャアアアアーーーーーー! 皆殺しダアアアアアーーーー!」


 女性陣も男子顔負けの戦闘力を見せつけ、ヒトガタにかかっていく。

 異常なまでの熱気、士気に、血が通わぬ怨念たちは気圧されるように倒され、抑え込まれていく。


「小癪な……!」


 だが、レオスは更に生成を行う。その数、今や100を超えている。

 陸前が最小限の力で射抜いていくが、それでも間に合わない。


「っていうかいつまで出てくるんだこいつら!?」

「これじゃ兼代が近づけも……!」


 そんな彼らの横を、『異常な軌道』をする影が通り過ぎていく。

 ジャージ姿の長身の女性は手近なヒトガタを適当に掴むと、その首に「何か」を刺し込んだ。


「!?」

「君達がどんな存在だろうと、この世に存在するのなら対策してみせる」


 ジュウウウウウ!

 何かが焼け焦げるように、ヒトガタが溶解していく。

 ヒトガタはしかし悲鳴すら上げることなく溶け落ちて――針に吸い込まれるように消え去った。


「――天才なめんな、有象無象」

「姉さん!?」

「やっほ、愚妹」


 百目鬼 月日星は、妹にひらひらと手を振った。


「な、何だあの美人さん!?」

「あの真っ黒野郎を消し去った!?」

「何で姉さんがここに!?」


 月日星はコキコキと首を鳴らしながら妹を見やる。


「えー、だって一応この作戦の指揮官だし。陸前ちゃんと兼代君には言ったよ、救助班がやられたら行くって」

「だからって、出てこないでよ! 存在自体が恥ずかしいんだから!」

「おやおや、随分な言いようだ――おっと?」


 高校生軍団の中で一人だけ、中学校の制服を纏った少女が舞っていた。

 両手に月日星の針を握り、次々に無慈悲に、頭や心臓といった人体急所に突き刺していく。その沼のような目はひたすらに「だるい」という感情を映していた。

 その膂力と機動力は高校生を遥かに上回り、彼らを足蹴にして効率のみを求めて動き回る。


「光!? あいつも来てたの!?」

「ったく、中学校休みにしてやったのに、仕事だからって聞かなくてさ。生真面目だよね」

「あ、居た居た、クソ姉さんズ」

「クソ姉さんはこっちだけだよ!」


 側転からのバク転、そして空中三回転捻りを加え、灯の前に着地する。

 百目鬼家の三姉妹は今、ここに集った。


「ほれ、JK姉。こっちの大人姉が作った、対魔念人用の針だ。神器を解析して即席で作ったらしい」


 爪楊枝入れに入った大量の針は、待ち針の形状をしていてどう見ても霊験あらたかではない。


「ダウンサイジング破魔矢とでも言っておくれ。これであいつらの頭数くらいは減らせる。――ジョーカーが三枚なんて掟破りもいいとこなチョンボしてるんだ。勝てないはずがない。それに――」

「誰かと思えば、何かと邪魔をしていた者達か……」


 レオスの怒りの声が届く。


「それはどうも、お耳が速いようで」

「貴様はグルスとの戦いに居た者か……。神器使いでもない分際で生意気な真似を……!」


 レオスの圧は、経験浅い高校生たちを震わせた。「ひいーー!」と悲鳴を上げている者もいる。


「や、やべえ! あの親玉やべえ!」

「めっちゃこええ! チンピラなんて比じゃ……!」


 そして、『それ』を遥かに超える圧が、彼らの背中から襲い来た。


『!!?』


 その圧に、ヒトガタすら動きを止めた。

 圧倒的な憤怒の気が、神経以上に支配的な動きを司るものを停止させる。


「なるほど。なら神器使いならいくらでも手を出していいいのだな、レオス・グランディコマンダー」


 甚平をはだけ、今や上半身は裸に近い。

 右手に握るのは――途方もない巨槍だった。身の丈の倍はあり、その形は茶、青、赤、白がらせん状に組み合わさった複雑な形状をしている。穂先は三又に分かれ、それぞれが炎のような形である。


「貴様は陸前 将蔵……!」

「り、陸前!?」

「ってことは、陸前の父ちゃん!? あの人!?」

「貴様らに父ちゃんと呼ばれる筋合いはナアアアアアアアーーーーーーーーーーイイイイイイイイ!」

「ヒイイイイイイイイーーーーー!」


 怒りの大咆哮は敵だけでなく味方をも震え上がらせた。

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