第104話

 連続で、広範に、埋め尽くすように、光が光を打ち砕くために襲い掛かる。鋭く重い打撃の音が重なり合って巨大な音となって、鼓膜を叩く。

 ジュデッカ。それは、このコキュウトスのエネルギーの殆どを叩きつける攻撃だ。

 コキュウトスのエネルギー源とは、陸前の『命』そのもの。

 そのために陸前は常に髪飾りとして身に着け、コキュウトスにエネルギーを供給しているのである。

 命は言い換えれば生命力。吸われ過ぎれば命の危機だが、食事や睡眠などの営みで回復していくもの。そしてコキュウトスは、極めてエネルギー吸収力が緩やかなのである。何せ、吸収口が小さいのだ。

 それは陸前の負担が殆ど無い、という利点にもなる。しかし、戦闘中に一度使い切ってしまえば、終わりということでもある。

 陸前は今、普段のジュデッカの更にエネルギーを高めた状態。文字通り、二の矢は無い状態でジュデッカを放った。

 まさに不退転の一撃。全てを込めた攻撃だった。

 しかし、炸裂する光が消えた時。


「……」


 ピスパーの展開する光の壁に、傷一つなかった。


「そんな……」

「終わりか、小娘。ヒャヒャヒャヒャヒャ!」


 終わりだ。エネルギーのチャージに、コキュウトスは膨大な時間を要求する。矢を装填するというよりは、人間が体力を取り戻すと言った方が近い代物だ。

 今のコキュウトスはトライアスロンを終え、ゴールラインで倒れ込んだ人間にも等しい状態。そこから更にトライアスロン以上の運動をするなど、出来はしない。


「小娘。とりあえずはお前も攻撃は出来んが、ワシも攻撃出来ん……お前は助かる……痛い思いをしなくていい」


 ピスパーの皺だらけの貌が、サディスティックに歪んだ。


「――とでも、思っているか?」


 陸前の頭上に、コツン、と石が落ちてきた。


「……?」


 ほんの少し痛い、という程度の痛みだが――頭上を見て、背筋が急速に冷え込んだ。

 頭上が。天井が。木と土の塊が。

 『落ちてくる』。


「壁を形成する能力……それは『横』にも形成が可能! ワシは今、天井の左右を『縦』に割き、上の土を『横』に割いた!」

「そんな……」

「ワシへの影響は絶無! 逃げ場なぞ存在せん! さあ――再起不能になってもらおう! 神器持ち!」


 再起不能という言葉で誤魔化したけど、これは『死』だ。迫りくる、落ちてくる、無慈悲で重々しい『死』そのものだ。

 そう。自分は、死ぬ。

 終わる。

 まだ、何もしてないのに。

 何も、出来てはいないのに――


「……!」


 右腕に、顎に、左腕に、脚に、力がこもる。

 『終われない』。

 終わることなんか、出来るはずがない――!

 陸前は――土と木に飲まれた。






「ヒャヒャヒャヒャヒャ! 遂に仕留めたぞ! 遂に終わったぞ、陸前 春冬!」


 ピスパーは諸手を叩いて大喜びしていた。

 神器持ちを仕留めた今、もうここに用はない。後はあの兼代 鉄矢。忌々しい男とレオスの戦いに加勢しに行くだけだ。


「さあ! レオス様の下へはせ参じ――」

「待ちな! そこのおじいちゃん!」


 と。

 ピスパーのことを呼び止めたのは――防壁の向こうに立っている、一人の少女だった。

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