第103話
「私の神器の術式は、『神器を使用不可』にする神器。貴様には――人類には、私への対抗手段など絶無」
「そん……な!? そんな、そんなインチキ……!」
「年端も行かぬ小僧にはまだこの現実は分からんか。博打は必ず親が勝つように出来ている」
レオスは俺の顔に、ゆっくりゆっくりと、余裕たっぷりに、掌を置いた。その生命感を感じない冷たさが、言いようもなく恐怖だ。
「貴様は戦う前から既に我に敗北をしている」
そして、尋常じゃない握力が込められる。
頭が軋む。軋む、軋む。軋み、軋み、軋んで――
それでも、対抗手段は、今奪われた。
「が……あああああああああ!」
「ジョグ・ミナタス・グルス。全員を打ち破ったことは称賛に値する。……我を含めた五人で十分だと思っていたからな、日本の侵攻は。貴様は我が計画を数年遅らせた。魔念人が一度崩れた体を再構築するにはそれなりに時間が必要でね」
「……!」
「それなりの刑罰は受けてもらわないとな。兼代 鉄矢よ」
「くっ」
陸前は20発目となるカイーナを放っていた。
青き一撃はピスパーに向けて突き進み、その身を穿つ――
その数センチ手前で、四散した。
「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! 無駄じゃ無駄じゃ、娘! このピスパー・サンクチュガードナーの防壁を破るなど、絶対に不可能!」
老人のような姿をした魔念人・ピスパーは、嘲り笑った。
「我が能力の名は「アブソリュ・インタラプト」! ジョグの能力とは逆、絶対に相手を通さないための能力! それがそのようなパチンコ玉などに、破れる通りなどないわあ!」
「ネーミングセンスが残念ですね。もう少しなんとかならなかったんですか」
「ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ! もはや皮肉しか言えなくなったか、娘! それもそうじゃろうなあ! 貴様には絶対に、この我を倒すことなど出来んのじゃからのう!」
ピスパーの前に展開された防壁は、透明だが光を反射していた。巨大なプラスチックのようだが、その堅牢さは今までの攻撃が証明している。
カイーナ、アンティノラ、トロメア。その全てを試したが、ピスパーは一度として攻撃を避けようともしなかった。
その全てが彼の展開する防壁の前に阻まれて四散してしまう。
「……なら。行きますよ、コキュウトス。やりますよ」
機構解放――
「ジュデッカ」
カイーナの破壊力・アンティノラの連射力。トロメアの拡散力。
その全てを結集した一撃を放つことが出来るのが、このコキュウトス最終形態・ジュデッカ。
今の陸前に切ることが出来る最高にして最後のカードだ。
「ピスパー。このジュデッカなら、貴方程度は簡単に撃ち貫くことが出来ます。かつてジョグを撤退させたほどの破壊力、その身で味わいたくなければ直ちに――」
「ひゃひゃひゃひゃひゃ! はったりもいいところ! 自分でも分かっているのじゃろう、それがこの壁を打ち破ることが出来ぬと!」
陸前は弓を引いた。
あの時のように。ミナタスを撃ち落とした時のように。
あの時に出来たんだ。自分は、出来るはず。
そう思っているのに――右腕が震える。
たった数メートル先にいる、老人を落とすことが出来る未来が見えない。
「後悔しますよピスパー。コキュウトス殲滅形態」
でも、やらなきゃいけない。
兼代 鉄矢――最強の魔念人と戦う男を、助けに行くために。
「……ジュデッカ」
発動した光は、幾千もの矢として光の壁に叩きつけられた。
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