第93話
陸前家にアジトがある。そう明かされたのは、一昨日の夜だ。
まず最初に知っておくべき情報として、会議の最初に百目鬼さんがアジトの位置について話した。
「まずアジトの位置をお伝えします。それは陸前家の地下です」
百目鬼 月日星さんがあの時に言った時の衝撃は、俺は人生であと何回経験出来るのだろうか。
全員が絶句していた。
あり得ない。あり得るはずがない。いや、あってはならない。
何よりも驚いていたのは、陸前 将蔵さんだった。
「な、何を……! 百目鬼君!? そ、そんなことはあり得ない!」
「その通りだ、百目鬼君。君の叡智は知るところだが、そのような詭弁は――」
政治家の人まで援護射撃に入ったが、百目鬼さんは臆せずに続けた。
「落ち着いて聞いて下さい。そうは言いましても、「そこしか」あり得ないのです。まだ見つけたわけではありませんが、必ず秘密の地下室があるはずです」
「君が……。他人の君が、当主の私よりも詳しいというのか?」
流石に将蔵さんも苛立っているみたいだ。しかし、百目鬼さんは「いいえ」と平然と負けを認めた。
「そんなはずはありませんよ。ですが、柱の瑕すら知っているからこそ、見えないものがあります」
「百目鬼君。我々政府も、調査を行った。陸前家が日本を脅かすために行った――という、万が一のことがある。隅から隅まで見た。蔵の中も調査した。しかし、我々は何も見つけられなかった」
「ええ。そうでしょう。そうでしょうとも。常識の範疇で。倫理の範疇で探していれば、見つかるはずがありません。たった一つだけ、探すことは出来ない場所は探すはずがないのですから」
「探すことが……出来ない場所?」
「それに関しては」
くるっと、百目鬼さんは僅かにキモさの片鱗を見せて妹を見やった。
「先日――私の妹が、陸前家に入ることを許された際に見つけました。結論から言います。魔念人は、神器の封印場所の地下に潜伏しています」
「!?」
「探さなかったでしょう? あそこは。探せるはずがない。何せ半分聖域のような箇所。陸前家における最高機密の眠る場所をあばこうとするなど、あり得ませんからね。それが、陸前 将蔵さんのような、家の歴史を深く理解している方なら、なおのこと。わざわざ怪物を叩き起こすような真似はまず、しません」
俺はその間に思い出していた。あの陸前家の庭の一角――盛り土が並んで、その上に神器が突き刺さっていた封印場所。
でも、あれがアジトだなんて、納得できるわけない。
「百目鬼さん」
俺は思わず口走っていた。
声は止まらない。この会議室で最年少クラスである俺に、全員の視線が向いてしまっていた。
「あの、何で、そんな陸前家の地下なんて断定が出来るんですか? あばかれる心配の無いとこなら、もっとこう、いっぱいあるはずじゃ」
「いいえ。まず魔念人が根城とする場所は、前提条件があります。その前提条件があったからこそ、こうして断定出来ているのです」
言葉遣いは平等だけど、何か他意の感じられる視線だ。
「城とは守る場所。隠す場所。外敵を阻むための場所です。それが触れ得ざる聖域であれば、守り隠す仕事は「伝統」と「意識」が担ってくれます」
将蔵さんが、ぐうっと唸り声をあげた。
「社は決して動かせない。守りは完璧です。しかし、魔念人にはもう一つ、重大な外敵がいます」
「外敵……」
そこで、俺も悟った。
そう。あいつらの敵は、俺達だけじゃない。
「夜……ですか?」
「その通りです」
無関心な眼が、一瞬だけ称賛のフィルターをかけたように見えた。
「夜こそ、彼らの大敵です。――まともに動きのとれる兵士のいない城など、何の価値がありましょう。彼らは体内で暴れる怨霊達を恒常的に抑制するための手段が必要。それこそが、神器。盛り土に挿すことでその封印の力を地下に流し込んでくれるのでしょう。彼ら自身も弱体化はするでしょうが、怨霊の力は弱まる。万が一侵攻を受けても対応できるようにするために、彼らはそこにアジトを築き上げた」
「人と夜……。彼らの二つの敵を同時に阻む、鉄壁の城か……!」
「魔念人が私達の……陸前家の封印を、利用していたというのか!?」
「ええ。そういうことです。むしろ、「そうなるようにした」というのが、私の考えですがね。まあ、どうでもいいことですが。その辺は」
さらっと重要なことを流した気がする。
「そしてその入り口なんですが、それに関しても大体あたりはついています。しかしそれを開けるためには、陸前家の協力が必要です」
「一体何をすると……?」
「お上品なドアノッカーや蝶番がついた扉じゃないんですよ」
盛り土を全て崩し、あばきます。
平然とした顔で、百目鬼さんはとんでもないことを言ってのけた。
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