第六章「好きな人と一緒にいる」
第92話
陸前 春冬を語ろう。
俺とこいつは出会ってまだ一月も経っていないがかなり妙な個性を持った奴だという印象は未だにピンピンと健在だ。
キンキン五月蠅く鬱陶しい個性では決してない。ないんだが、とにかく癖がある。
最近はマシになったけど、まず言うことを言ってくれない。それまでの間には大きなラグが挟まる。
次に、知識の方向性が俺とは全く合わない。そのくせ、話題にすることにいちいち変な単語を連発するから困る。
あと、表情が全く変わらないし抑揚がない。最近はわりと慣れてきたからいいものの、最初はこの特性が地味にかなり厄介だった。何せ、変わらないんだぜ? 表情ってのが全くないんだぜ? 怖いと言ってもいいくらいだ。
更に自然に、人をディスるのも大きな問題だ。毒をぷしゅぷしゅ噴き出す様はヒョウモンダコか何かかと言いたくなる。まあ俺も毒はそれなりに吐いてるらしいからお互い様だけど。
あと胸が小さい。ほんと小さい。っていうか、無い? スレンダーが魅力なのかも知れないけどそこに嘘はつけない。俺は嘘はつかない。胸さえあったら完璧だったのに、と思わざるを得ない。
さて、ほんと洗いだしてみると、コイツはものの見事に欠点だらけだ。たまに――いや、結構な頻度で、俺はコイツと合わないと思うことがある。あのエクストリームサディスティックサイコパス・赤間とも大概合わないけど、陸前はこいつとはまた違う方向でそう感じる。
きっとこの騒動が終わったら、徐々に疎遠になっちまうんだろうな。
そう感じていたのは、最初の数日間だけだ。
「お待たせしました、兼代君」
玄関。
決戦の朝。
平日の午前なのに制服ではなく、私服の陸前が俺を迎えに来てくれた。
「おう。おはよう。コンディションはどうだ」
「私を見て早々に言うことがソレですか、このアホ。何か気付くことないんですかタコが」
「気遣った俺に早々に言うことが「アホ」な奴よりはましだ! ……で、何なんだ」
陸前はくねりと、キモさと妖艶さのラインをギリギリで踏み越えないポーズをとる。
「ほら、この服です」
「え。……あ、なるほどな」
そうか。コレ。
俺が選んだ服か。
「いいのか? 動きやすさとかは考えてないんだけど」
「いいんですよ。そもそも私はアーチャーですから、兼代君と違って動きにくくてもいいんです。ランサー相手じゃなきゃ」
「何でランサー?」
「エクストラクラスの方がかっこいいですけどね。アヴェンジャーとかアルターエゴとかになりたかったです」
「何の話してんのお前!? アルターエゴって何!?」
「ハッ、この程度もご存じないと。兼代君、無教養は恥ですよ」
教養なのか? 反省する案件なのかコレ?
「それより、早く行きましょう。セヴァスチャンも待ってますから」
「セヴァスチャン? 運転手か?」
「いいえ、私専属の執事です。ですがその実態は神器を7種類も使いこなすという恐るべき男。過去に様々な魔念人を下し、魔念人の発展形・魔念神をものの数瞬で葬ったという実力者です」
「設定盛るなよ! 遥かに上の次元だよねそいつ!」
「そうですね。20巻くらいすっ飛んでるくらいのランクですね」
また変な単位を。
「まあ嘘です。運転手さんのことですよ。田中 正嗣さん。今度第二子が生まれる、魔界生まれの32歳です」
「しれっと変な情報混ぜるなよ。魔界にも田中って苗字あるのかよ」
「魔王 田中。ネット小説漁ったら結構出てきそうですがね」
「否定して? まずはその嘘を嘘と言ってから話題進めよ? 俺の中で魔界生まれになるから、田中さん」
俺達は並んで車に向かった。
陸前はせっかちだから歩く足が結構速い。しかし、もうすっかり俺に合わせての速度にしてくれるようになってくれた。揺れる肩が視界の端にあるっていうのも、もう慣れたもんだ。
この騒動が終わったら、徐々に疎遠になるだろう。
そんな風には、もう考えない。
「なあ陸前。もうちょっとで夏休みだけどよ」
「ちょっとってほどでもないですけどね」
「一回くらい遊んどくか?」
「兼代君、戦いの前です。フラグを立てるのはやめましょう? 死にますよ、私か兼代君が」
「フラグ!? ……あー、嫌だったか? まあ、以前は色々あったしな」
「ハア。フラグすら知らないとは、本当に駄目ですね兼代君は。それに加えて、更にフラグを立てようとするとは……」
またわけわかんないことを。
まあ、
「いいですよ」
それが、いつものことだから。もう気にはしないけど。
「今度はきっと、ええ。本気出しますから、覚悟しといてください」
「何の本気だ」
「ナイショです」
陸前 春冬を語った。
しかし、実のところ――何も語れてはいないんだろう。そう痛感する。
「そうか」
本当に「陸前 春冬」を語れるようになるのは、あと数年はかかるんだろう。その頃にはこいつも、どんな奴になっているのやら。
「か、兼代君、何をじっと見てるんですか。私の顔どっか欠けてます?」
「え!? ……あ、ああ! すまん!」
しまった、変に耽り過ぎたのか。陸前の顔をじっと見ていたらしい。
空はあいにくの曇り空。今日この日、俺達は決着をつける。
ふざけた目的を叩き潰すために。
決戦の地――
陸前家に向かうのだ。
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