第79話

「帰っちゃうのかい、月日星姉さん」


 校門の外に出た百目鬼 月日星を、百目鬼 光は呼び止めた。


「なんだい、念のためっていう口実で、せっかく学校お休みにしてあげたのにわざわざ律儀に居たんだ。てっきりゲーセンにでも行ってるかと」

「僕はアンタとは違うんだよ、変人ニート」

「おやおや、随分だ。哀しいな、お姉ちゃん。――で、何が言いたいんだい」


 月日星は歩きながら光と話を続ける。

 光はイラつきを示すため、足をわざと踏み鳴らしながら歩く。


「これだけでいいのかって言いたいんだよ。結局何がしたかったのさ、今回は。マネンジンとかいう奴の体の一部の木っ端を倒せって命令だったんだろ? まだ倒してもいないじゃないか」

「あー、まーね。でも、そっちはもういいんだ。正直ね。もう見極めは終わった」


 グルンと気持ち悪い動きで百目鬼は光を振り向いた。


「ボクの今回の目的は分かるかい」

「……なんとなくならね。どうせ、アレだろ? カネシロって奴が、本当に過去を吹っ切ってるかどうかの見極めだろ」

「うん。まあ大体はそうだ」


 月日星は校舎の方に目を向けた。

 遥か遠くで、階段を上がる男の姿が見えた。が――月日星はすぐに目を逸らした。


「何せ最後の相手になるであろう奴の「正体」的にも、やわなメンタルじゃあ駄目だ。全く使い物にならないんじゃあボクのビジネスにも支障が出ちゃう。それに戦闘のセンスとか頭の回りもまあまあだったしね」

「それでかい? わざとアイツの攻撃喰らったの」

「うん。流石に気づくのきついだろうから、一芝居打ったけど」


 月日星は自らの瞼をさすった。


「っていうか見てたの、光。随分詳しいね」

「不法侵入してこっそり見てたよ」

「やれやれ末恐ろしい」

「姉さんだって同じようなもんだろ。――まあそれはそれとして。姉さんの目的的にも、これからが本当に重要だろ?」


 光が言うと、はふー、と呆れたように息をつく月日星。


「何でそう考えるの」

「だってこれからカネシロが会うのは――」

「うん。そうだ。そして。だからこそ帰るんだ」


 月日星は足を速める。


「これから行われるのは、蛇足も蛇足さ。傍目から見てても何も無い、余計なことだ。その当人にしか分からない、世界にとっては最も意義の薄い行為さ。あのグルスとかいうのを倒すことに比べたら、重要度なんかゼロに等しい」

「……?」

「でもね。意味が無くとも大切なんだ。それを見るのは、野暮でしかないよ」

「感情的だね。姉さんらしくもない」

「ボクは基本、感情で動く奴だよ」


 月日星は目を道端のクローバーに運んだ。光は月日星の顔を見ていた。


「子供だからね」

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