第22話
「隙だらけだよ、ジョグ!」
横から急速接近した百目鬼が。
『金属バット』を用いて、ジョグの側頭部を殴り飛ばした。
「!? ぬうう!? ど、道具!?」
「百目鬼!?」
ジョグも流石にこの一撃には堪えたのか――ユハフトゥ・リジェクトの発動をやめ、百目鬼と対峙した。
だが、視線を固定してしまったことが、ジョグの明暗を分けた。
「今だ! 全員、かかれえええええええええええ!」
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』
隊長殿の号令と共に――クラスのほぼ全員が、一斉にかかった。
「うお!? ぬううううう!? き、貴様らああああああああああ!?」
バットで殴られた後の一斉攻撃にはジョグも圧倒されたのか、バランスを崩して倒れ込んだところに、一気呵成に攻め立てるクラスメイト達。
何が起きたかもろくに理解出来ないで突っ立っていると――
「何をしているんだい、さっさと行くよ! トイレ!」
「え!?」
「ごめんね、ちょっと「本当の作戦」のためのデコイになってもらったんだ」
百目鬼はさっき、クラスの会議には参加していなかったはず。それに、本当の作戦だと? 一体何の話なんだ? それにあのバットは?
「君には、あえて教えてなかったけど。ぼくらも流石に、そのまんまごり押すつもりは無かったんだ。強力な一撃を絶対に命中させて押さえつけるっていう作戦だったんだよ」
「絶対に……?」
「そう。確実に攻撃が当てられるのは、あの技を出す直前さ」
百目鬼はなるべく俺を刺激しないようにか、俺を小脇に抱えながら走り出した。
その時に一瞬だけ、席から動かない赤間と目が合った。写真を撮っていた。あいつマジ何やってんだ。
「だからね。悪いんだけど、君にはデコイになってもらったのさ。作戦を知っていたら、あの武闘派のことだ。感づかれるかも知れないからね。あいつはここで止めて、君をまずトイレに行かせる。ふんじばることが出来るなら、万々歳だ。最悪でも、君を一時救うことは出来るからね」
「だ、だけど根っこの解決にはなんねえだろ? そんなの一時しのぎで……」
「何度でもやる気、みんなあるってさ」
「……!」
感動が胸を打つ、という言葉をここまで素直に使える心理状態になったことは、過去を検索しても見つからない。
ただのクラスメイトたる俺のためにそこまでしてくれるなんて。この胸の暖かさは、下腹から湧き上がる寒気を打ち消すには十分すぎる温度を持っていた。
「ちなみにそのバットは? 何でジョグを殴れたんだ?」
「ああ、これ? 姉さんと一晩で作ったんだ。誰でも殴れるバットだって。このクマはそのせい」
「姉さんどんな技術力なんだ?」
「姉さんの頭脳はよく分からないんだ」
ここまで行くと一度会ってみたくなるような御仁だ。
そして百目鬼は、男子トイレまでのロードを容易く走り抜け、ついにその前までたどり着いた。
昨日はあれほどに渇望した、全ての穢れを包み赦す輝きの部屋が、今俺の前にある。まるでそれは奇跡のようだ。
「さあ、行ってきな! とりあえず君が用を済ませれば、ジョグは目的を無くすんだろ? それで今回は撃退扱いに出来るんじゃないかな」
「ありがとうな、本当に!」
「皆にも言いなよ!」
百目鬼に降ろしてもらい、俺は手洗い場を駆け抜け、タイルを踏み越えた。カギの色は青、誰も入ってはいない。
こんなにも幸せな気持ちでこの部屋に入るのは、恐らくは初めてのことだろう。
みんなへの感謝の気持ちでいっぱい、だなんて女児アニメのキャラクターみたいな言葉が、心の中に響――
「ユハフトゥ・リジェクトオオオオオオオオオ!」
「え」
その雄たけびは、心の中の言葉を塗り潰す。
俺が見たのは――
『個室を貫通し、伸びてくる男の上腕部』だった。
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