第13話

「まあ、落ち着いてくれよ、陸前。俺だって何となくは察せる。俺は何も知らないけどさ、あのジョグって奴と戦って欲しいって話なんだろ? 多分さ」

「え」


 恐らく驚いている――んだと思う。しかし表情筋が頭蓋骨と一体化しているような天然デスマスク構造、まるで表情は変化しない。


「まあ、すっごく平たく言えば、まあ、その、そう、そのような感じ、ですが」

「それなら、いいよ。どんな戦いでも、俺はあいつと戦いたい」

「戦いたいのですか? あんなことをされた後なのに」

「ああ。……かといって、別に。戦いが楽しいとか、そういうわけじゃない」


 ジョグ襲来の後、俺達は話を聞いた。

 それは、日本中の電波が一時的に乗っ取られ、日本中の人間を、絶望と穢れに満ちたバッドエンドへと導くという声明を発したという話だ。

 僅か数分の声明だったらしいが、その時間はちょうどジョグが来た時間と一致する。つまりジョグはその尖兵だったと推測するのは容易だ。

 日本中で、俺のような奴が発生するかも知れない。

 ジョグの攻撃を直に受けた俺だからこそ、その恐ろしさとおぞましさが理解出来る。

 そして。


「何て言うか……許せないんだよ。あいつらのことが。トイレに行くことくらい、誰でも当たり前に出来て当然だろ? それが出来ない辛さって言うのは、自慢にならないし汚い話だけど、俺はよく分かってるつもりだ」

「……」

「だからさ。俺も、知りたいんだ。あいつらのことが。そして出来れば、戦いたい。俺に出来ることがあれば、協力したいんだ」

「兼代君……」


 早く話を聞きたいという下心こそあったが、ほぼ本心だけを話したつもりだ。

 人をトイレに間に合わせない。それを下らないと唾棄することも出来るかも知れないが、そんなはずはない。この目的を持った奴らを放置すれば、誰もが等しくもがき苦しむであろう、想像を絶する苦しみの世界が生まれてしまう。

 そんな世界、絶対に認めない。

 相手にどんな目的があろうとも、トイレくらいは誰でも行きたい時に行けるべきなんだ。


「そして話の前に済まねえけどな」


 そう。こんな風に、な。


「トイレ行ってくる」


 ジョグ襲来まで、残り4回。





「何でいちいち重要な話の前にトイレに行くんですか貴方。前世で何個のトイレを破壊すればそんな悪辣な呪いにかかるのでしょう」

「いや、実はお前に突っ込み倒しの時点から結構ヤバかったんだぜ? 話もちょうどいい節目だったもんでな」

「そう言いつつカルペスを飲まないで下さい。お腹が弱いくせに」

「好きなんだよ」


 ドリンクバーのは薄いからセーフ、と自分に言い訳はしておこう。

 そしてさっきの話で少しは安心してくれたのか、陸前ももう震えてはいなかった。じっと俺を見て、話し始める機をうかがっている。

 遂に説明開始か。長かった。

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