第15話「交換」



「さっきは動揺して逃げちゃったけど、それはごめんね」


「大丈夫です」



わたしたちは笑いながら言葉を交わす。


高校時代のわたしが見たらきっと羨ましがるだろう。

先輩と話したのは多いほうじゃない。

だからこの時間はとても楽しかった。



「そろそろ行こうか」


壁からそっと背中を剥がした先輩が告げる。


楽しい時間はあっという間に過ぎてしまうというのは本当で、わたしはもっと話していたかった。


「あの、先輩」


「ん?」


「ライン、交換しませんか?」



思わず出た言葉に先輩がキョトンとする。

けれどわたしも相当なもので、自分の言葉に唖然とした。


けれど少しの間を置いて「いいよ」と告げた先輩。

わたしは慌ててスマホを取り出した。



交換を終えると今度こそわたしたちは別れた。


わたしは嬉しさのあまりスマホを握りしめて離さない。

ぎゅっと力の入った両手で握り、胸に押し当てる。


思わぬ幸運に、家に帰っても熱はおさまらなかった。


画面を開いては眺めて閉じ。そしてまた開いては眺めて閉じ。

それを何度も繰り返していた。


課題なんて手につかなかった。








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る