第14話「照らし合わせ」




「けがは? 大丈夫?」



初めて会ったあの時と変わらない雰囲気にわたしは嬉しくなった。


そして知らない間にわたしの瞳からは涙が溢れ、頬を伝っていた。

それが地面に落ちると小さなシミができ、すぐに消えていく。



「立てる?」


先輩に尋ねられ、わたしはコクコクと首を縦に振った。

地面に手をつき、立ち上がろうとする。


地面に足をついた瞬間、鋭い痛みが走り、わたしは顔を歪めた。



「こっち。まずは人の少ないところに行こう」



先輩は慣れた手つきでわたしの手を取ると、人通りの少ない建物の近くへと引っ張ってくれた。


そこで壁にもたれかかると、先輩はわたしの前にしゃがみ込んだ。



「擦り傷できちゃってる。けど膝が少し赤くなってるだけで血も止まってるから、たぶん大丈夫だね。少し休んでようか」



話し方も優しいところも変わらない。

わたしは小さく頷き、先輩は立ち上がった。

とん、とわたしの隣で壁にもたれかかる。



「久しぶりだね。一年の時以来、かな」



話を切り出したのは先輩だった。

わたしは震えそうな声で「はい」とだけ答える。



「鴻上さんは今何してるの?」


「専門学校行ってます……」



質問の答えに「そっかー」と空を見上げた先輩は、すぐにわたしへと視線を戻した。



「楽しい?」



口角を僅かに上げ、笑顔を薄らと浮かべ尋ねてくる先輩。

不覚にもその笑顔に一瞬の間、見惚れてしまった。



「楽しいです。好きなことを学べるっていう環境がすごく幸せです」



答えているとわたしまで笑みが零れた。


「それはよかった」と答える先輩はさっきよりもさらに大きく笑みを浮かべ、嬉しそうに笑った。



「俺は大学。夏休みは課題が多くてしかたない」


眉尻を下げて困ったように告げる先輩に「専門学校も多いですよ」と返すと「マジかぁ」と苦い顔をした。



「でも、大学もいいもんだよ。遊べるから、専門と違って」


いたずらっぽく笑みを浮かべた先輩にわたしも思わず笑みを零した。


「そうかもしれないですね」


そんな返しをしながらわたしは必死に声を抑えて笑った。



「元気そうでよかった」


唐突に先輩が落ち着いた声で告げる。

ふと見上げると、口元だけに笑みが見えた。


「あれっきり鴻上さん、部活に顔出さなくなったから。まずいこと言っちゃったかなって。少し心配だったんだ」



わたしの口から小さく「あっ」と声が漏れる。



「何度か謝ろうと思ったけど、なんか……避けられてるような気がしてさ。なかなか言えなくて。それで結局卒業して会えずじまいだったから」



気まずそうに視線を流し、目を細める。


「今回、こうやって会えて、本当によかった」


そう告げた先輩は安心したような笑みを浮かべてわたしを見た。


目が細められ、口角が上がり、柔らかな視線が向けられる。



そのことに安堵して、わたしも肩の力が抜けた。



「わたしも、先輩と話せてよかったです」



無意識にそんな言葉が口から出てきた。

けれど、本心なのだろう。何の違和感もなく、その言葉は溶け込んだ。





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