第233話 ラスティン46歳(押し付け)



「本気らしいな、だがこの国が大混乱するぞ」


「それはするだろうな、それを含めて、彼らの責任だろう?」


「分かっていたけど、アンタ本当に性格悪いよな? 俺達領主はどうすれば良い?」


「何も変わらないと思って良いよ。一応、今度発布する憲法にはその辺りも決めてある。領主の権利と義務とかな、義務ばっかりだった気もするが、気にするな」


「気にするなって、憲法?」


「そうだ、憲法だよ。トリステイン王国憲法だな、ちゃんと逃げ出せれば”王”は抜く事になるがね」


「そこまで考えていたのか?」


 まあ、最悪の場合も考えてあるが、上手く押し付けられるか次第だな。私としてはこの国が好きだし、出来れば”引退後”もこの国に留まりたいと思っているから、それなりの事を考えるさ。


「俺はアンタが、いえ、陛下が今の統治を続けるのが一番民の為だと思います、ご再考頂けませんか?」


「考え直しても良いが、その場合は押し付ける相手が変わるだけだぞ?」


「相手とは?」


「そうだな、誰もが有り難がる始祖の血を受け継いでいる誰かだな?」


 筆頭候補は、ゴトー侯爵夫人だったりするな家柄も問題あるまいし、名声も高い。夫が問題だが、他の転生者達の受けは良いだろう。ゴトー家を押し付ける時に、伯爵から侯爵に爵位を上げたのは権威付けの意味があったのだが、義父殿辺りなら気付いていただろう。


「なあ、この場で反乱を起こして良いか?」


「構わんぞ、責任を持ってこの国をまとめて行ってくれるのならな。私が王位に就いた経緯くらいは、義母殿から聞いているだろう?」


 ゴトー侯爵がすっごく嫌な顔をしたぞ、別にやってみれば意外と上手く行くかも知れんのにな。今の王城の役人達の能力は多分この世界でも随一だと思うし、キアラが出産や育児で政治に関われなかった時期も問題無くこの国を運営してくれた実績もある。


 有能過ぎて些か使い辛いと感じる人間も居るかも知れんが、それは贅沢だろう。欲を言えばもう少し責任を持って仕事をして欲しいと感じる若手も居るがね? 兎も角、今の国の方針を変えなければ、トリステインは後50年は安泰だろうな。一応、国王として50年,100年先の事を考えて来たからな。(ごく一部に個人的な事情があったのは否定しないがね?)


「アンタの娘を預かっているんだが?」


「リアーヌか、明人君は勇気があるな。私は兎も角、母親を敵に回す事は絶対に避けるがね?」


 まあ、彼女を敵に回したらこの世界の何処にも居場所は無くなるだろうな。義母殿と彼女のどちらかを敵に回すとしたら義母殿を選ぶぞ、私は。ゴトー侯爵アキトにもそれは分かった様だ。娘の事を出されても夫婦揃って眉1つ動かさないのは、微妙に事情が違うんだがね。


「相変わらず、我らが陛下は性格が悪いですな?」


「君だって相変わらずだな、だが、出来ない事を出来ると言うのは感心出来ないな」


「私が反乱を起こせないと?」


「そうだろ、”反乱を起こすぞ”と脅す人間には反乱は起こせないだろう? 本当にその気なら、何も言わず秘密裏に事を運ぶべきだが、君には向いていないし、人を傷つける事自体好きでは無いだろう?」


 実際に、ゴトー領は国軍を除いて最大の戦力を常備している存在だが、反乱を企てても上手く行かないようになっている。但し、だからこそデモを企てる人間には都合が良かっただろうな。上手く誘導して武力衝突でも起これば、色んな手が打てる。


「まあ、その通りですが、それは陛下も同じでしょう?」


「いや、私は”強い奴と戦いたい”などとは考えないぞ?」


「その話は蒸し返さないで下さい!」


「別に若気の至りなんて誰にだってあるだろう? 気にするな」


「首謀者ですが、アルビオンの人間と思われますが?」


 余程、若気の至りが気に入らないらしい、明人君もまだ若いと言うことだな。まあ、首謀者が”オリヴァー・クロムウェル”となれば放置する気も無かったのは事実だがね。愚痴王の差し金ではない事は分かっているし、どちらかといえば前ゲルマニア宰相の息がかかっていたという情報もある。(これ自体は私としては想像の範疇だったがね)


「まあ、身分は怪しいがアルビオンの方には確認済みだ。関与は当然否定したし、処分はお任せしますだそうだ」


「信頼出来るのか?」


「まあ、軍を出すとまでジェームズ2世は言い切ったし、アルビオンには利は無いよ。それに王妃殿下は君の奥方の幼馴染だぞ?」


「アンリエッタ王妃でしたね、別に幼馴染だからって・・・」


「そうそう性格は変わらないよ、アンリエッタ姫は”無茶をする”子供だったからな」


「それは聞いていますが」


「もう少し外交を学ぶか? アルビオンほど我が国の混乱を避けたい国は無いんだがな」


「それは、遠慮しておきます。黒幕の方は?」


「前ブルファ伯だな、追い出された領主に碌な事は出来ないと考えていたが、消えてもらおうと考えている。ゴトー伯爵家とは縁があったな?」


「そうだな、ゴトーが滅ぶのは納得行かんとか言っていた筈が、私が爵位を受けるのを反対した妙な人だったらしいですな」


「妙でもないが、妙でもあるな。処分を任せると言ったら?」


「やらせていただきましょう、我が領民に妙な事を吹き込んだ報いは受けてもらう!」


 ふっ、久々に好戦的な気分になったらしいな。もう少し政治全般に関心を持って欲しいな。


 前ブルファ伯は、私に刺客を送り込んできた人間だが、ばれないとでも思ったのだろうか? 非常識にも自領の”丘”を錬金の材料にした領主だった。海抜の低いトリステインには常に洪水や高波の危険があるのは、国民の共通意識と言っても良い筈だった。


 安易に災害時の避難場所を”材料”にすれば当面は問題無くてもいざと言う時に最悪の事態を招く訳だが、前ブルファ伯には理解出来なかったらしい。運悪く水害が起こり領民の反感を買い、領民の支持を取り付けた弟に追い出されるという程度の人物だがな。(自分は魔法を使って逃げ延びて、弟の現ブルファ伯は魔法を使って領民を救ったのだから、当然と言えば当然の結果だ)


 方法を間違えたが、領地を豊かにしようとした事は間違っていなかったと思えたから罰する事も無かった。実際多くの賛同者を得て、前伯爵は丘を切り崩して錬金に使った訳だし、その石材は各地に安価に売却されたから悪い事ばかりではなかっただろう。


 ある意味兵団の施設隊が活躍した為水害への危機感が若い領民には足りなかったし、伯爵領に派遣されていた領主代行もこちらも若く元々水害の心配など無かった土地の生まれだったのも不幸な組合せだった。伯爵領に派遣された兵団の錬金メイジに施設隊の経験者が居なかったのも悪い巡り会わせだった訳だ。


 貴金属の錬金を禁止していた為に手っ取り早く領地を豊かにする方法としては間違っては居なかったと思うのだが、前ブルファ伯は私並みに間が悪かったらしい。


 しかし、何を考えたか私を恨んで刺客を送り込んできたのは見逃せない。貴族としては立派だったらしいが、人間としては下種だった事を証明した訳だ。せめて引導を渡すべきだとか思った訳では無く、前ブルファ伯を操っている人間を特定したいからゴトー侯に彼を任せた。(勝手に排除されては元も子もないという、特殊な事情もあるがね?)


 前ブルファ伯にデモを起こして国を混乱させると考える才覚が無いのは自分で証明してくれたし、かなりの資金が前ブルファ伯からオリヴァー・クロムウェルに流れているのも確認出来た。その資金の出所は未だに不明なのだが、旧ゲルマニア宰相派の関係者と考えるのが自然だろうな。

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