第230話 ラスティン36歳(悪の魔法使い)



 レーネンベルク公爵が”あの子”と呼んだのは、実は・・・。(セレナが鈍いと言ったのもこの件らしいがね?)


 私にとっての孫だったのだよ、この歳で孫を持つ事になるとは思わなかったが、その原因の半分は私自身にあるのだからどうしようもない。ラファエルにとっては年上の甥になるのだが、何故、そう言う事になったのかの事情をイザベラから直接聞きだす事が出来た。


 まあ、こう言っては何だが私の場合と似ていた訳だが、ライルもそこまで母親に似なくてもいいと思うぞ。傷付いた男性を女性が身体を投げ出して助けるというのは美談になると思うんだが、それが逆だと弱っている女性に付け入ったと考えられてしまうのは実に皮肉だ。


 計算で行くと、ライルがソローニュ候になった時には既にイザベラのお腹の中には胎児が居た筈だ。ソローニュ候が話を急いだ(急ぎ過ぎだがな)のも分かる気がする。ガリア王の娘とトリステイン王の息子の子供など、あの頃の私には到底受け入れられない存在だった。


 染み染みとライル・ド・レーネンベルクだった青年の要領の良さ(間は悪そうだが)が羨ましい。私ではなく、レーネンベルク公爵に自分の身の振り方を相談したのもそうだろうな。


 最近、イザベラは息子を連れて、月に一度位のペースでトリスタニアを訪ねてくれる。子育てに関してはノーラが良い相談相手になっている様だな。ソローニュ候と私の仲は、イザベラの懸命な仲介にも関わらず好転はしていない(様に見える)。ソローニュ候自身は、トリステインの次の王が決まるまでは私と会わない決意をしているそうだが、まあ、余計な世話を焼いたからそれ位しないと妙な勘繰りをされかねないのも事実だ。


 イザベラ自身はあまり政治には詳しく無く、込み入った話は聞けないが、ソローニュ候は着実にガリアの”レーネンベルク”を築きつつあるらしい。以前の様にテッサが直接中に入ってくれればもう少し詳しい話を聞ける筈なんだが、テッサはテッサで忙しいからな。


===


 さすがはライル・ド・レーネンベルクと名乗っていた男だ、本当にそつが無い事だ。一緒に遊んでいる叔父と甥(甥の方が少し年上だがね)を眺めながら、そんな事を考えていた。


 幾分皮肉が交じっている様に聞こえるだろうか? まあ、愛する女性との間に簡単に子供を作ってしまえる辺りは皮肉りたくなるが、悪の魔法使いの面目も救ってしまう辺りは本当に”そつが無い”と思う。


 ん? 悪の魔法使い? 私だってメイジの端くれだ、最近はまともな呪文を唱えた記憶は無いがな。まだ分からないか? ラファエルが生まれる前の私にとっては、トリステイン国王とガリア国王、双方の血を引く子供が生まれると言うのは悪夢に違いなかった。


 別にその気が無くても、私にとって”実害”のある存在と思ってしまうのは避けられないと思う。ライルも父も転生者の特性を理解はしていないだろうが、それでも悲劇を避けてくれる辺りを”そつが無い”と称したのだ。


 多分、父も息子も大事な人間を自分の不注意で失った事が、その辺りの”嗅覚”を発達させた原因なのだろうな。羨ましいと思えないでもないが、引き換えにした物の大きさには見合わないだろうな。少なくとも、大事なものと引き換えに、そんな嗅覚を得たいとは思わない。


 ライルとイザベラの子が生まれた時には呼吸停止状態だったとか、イザベラが出産後体調を崩したいたとか聞くと少し自分が怖くなる。(ちなみに、イザベラは暫くソローニュから出るのを禁じられたのは、娘に弱い”悪の大(魔)王”の仕業で、私は関知していない)


 余談になるが、ライルの正体なんかをノーラに話したら、泣かれた。しかも、”もう同じ様な事は絶対にしない”と誓わされたが、もし、何かとノーラの命のどちらかを選択しなければならない事態になれば、自分が同じ様な選択をするだろう事は想像が出来る。(ライルの事だって後悔はしているが、もう一度同じ立場になれば同じ事をすると確信さえしているな)


 私自身は多少のもどかしさを感じながら、ラファエルが王位を”継ぐ日”あるいは”継がない事が決まった日”どちらが先になるか気長に待つ事にした。ソローニュ候と次期オルレアン大公が組んで、愚痴王を悩ませる日の方が近い気もするがどうなるだろうな?


===


 侯爵といえば、彼らも目出度く候爵位(正確にはその家の爵位を上げた後で継承する形だったが)を継ぐ事になった。勿論、”あの2人”だが、面倒を押し付けるという意図は無かったが断絶してしまったゴドー家を継いで貰う事を何とか同意させる事が出来た。野良召喚ゲートを封じる旅が明人青年に何を感じさせたか不明だが意外とあっさり受け入れてくれたぞ?


 明人青年、いや、新ゴドー侯爵は荒れ果てた領地を真っ当な方法で再生させようとは考えなかった。言うなれば、この世界に綜合警備保障会社に似た組織を立ち上げたのだ。魔法兵団の警備隊がやっていた事と似ているが、根本的に違うのは警備隊が依頼が片付けば、次の任務に移ってしまうのに比べて、武力を期間を定めて貸し出すという形式にした所だろうか?


 丁度、兵団が国営化される混乱もあって意外と順調な滑り出しをしたゴドー侯爵領だったが、人材の育成にも力を入れている様だ。義母殿を教官として招聘したり(ご愁傷様だな)、後見を持たない傭兵団を吸収したりと忙しい日々を送っているらしい。(ルイズと”同じ”子供達も、多くが侯爵夫人の訓練を受ける事になった様だが、前公爵夫人よりも厳しいとか聞いたぞ?)


 侯爵の試みが順調に進めば、兵団の警備隊を任せても良いかなと思うが、どうなるかは微妙だ。ただ、領主の勢力が減じすぎてしまい、魔法兵団の警備隊への依頼が増えていたのは事実だから、上手く行かないとも言い難い。


 鬼とかの有害な生き物が召喚される機会が減っても厄介事は減らないのだから、難しい問題だな。今後メイジが増えればメイジ集団に対応できる”力”が必要になってくる。ゴドー侯爵にはその辺りも検討して貰おうと思う。我が軍師殿も偶には活躍して欲しいしな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る