第219話 ラスティン31歳(国民総メイジ化計画)
私に出来るのはここまでと見切って(自分の欠点を扱き下ろすのも飽きる)王城に戻ると、キアラがガリアを通過してのゲルマニア東部への物資供給案を提案してくれた。実際の所、ゲルマニア国内での輸送方法は旧来の馬車がメインで時にはフネを使っていた様だが、それも先の戦争でかなり数を減らしている。鉄道を敷設しようにもメイジの数が絶対的に不足しているし、材料も少ない。
首府ヴィンドボナへの鉄道敷設が急務で、トリステインからのメイジも多くは回せない。そうなるとゲルマニア東部への物資はガリアかロマリア経由になるが、”ロマリア王国”は論外だしガリア中央部を経由したゲルマニアへの物資となるとあまり歓迎はされない。(それどころか、妙な関税をふっかける領主もいて滞る事も多い)
一方、ガリアのソローニュ候領を通れば、その先は殆どガリア王の直轄地(まあ、ガリア先王の陰謀の影響だな)で妨害も入らない。戦争用に物資を運ぶ線路に接続するのも可能だし、例の”ラヒテンシュタイン公国”を巻き込めばもっと面白い事になるだろう。
単純に我が国からゲルマニア東部へ物資を運ぶ(山や湖などを避ければ)最短距離を考えれば、ソローニュ候領は避けられないのだ。これに関しては誰も文句は言えないだろうし、多分最も効率的だろう。ライルが成功を収めればガリアでも鉄道の”駅”の存在価値が見直される事だろうな。
ライルには、愚痴王から致命的ではない程度の難題が幾つも突きつけられるだろうが、私に出来るのはここまでだろう。これ以上はライル自身の意思を捻じ曲げかねないし、ソローニュ候領の領民にも迷惑になるだろう。(ここまで露骨だと愚痴王がこちらの動きに気付かないとも思えないしな)
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国王としての私も、巣立ってしまった息子にばかり感けている訳にはいかなかった。”国民総メイジ化”などという、ある意味始祖(かみ)をも怖れぬ計画は、慎重の上に慎重に実行しなければならない。ただでさえ平民メイジと貴族の対立が表面化しつつある現状にさらに一石を投じる訳だからな。(平民側優勢と言っても、平民メイジだけが有利なのでは、第二の貴族を生み出す事に成りかねない)
但し、我が国では既に”隠れたメイジ”を一人前のメイジに育てる方法は確立されているから一度メイジ化してしまえばある程度メイジをしての力を当てに出来る。さすがに千人単位でメイジ化するのは難しいだろうが、最初は少しずつ経過を見守る形になる。
エルネストの研究成果を疑う訳ではないが、何事にも例外があるだろうし、マッド・ドクター自身もそれを指摘していた。先の事を考えればメイジ化の効率を上げる必要もあるだろうし、今の内に我が国の”ミョズニトニルン”ことミコト君に出来るだけマジックアイテムの改良を依頼する事にしよう。目が見えるようになった頃から何故か”ミョズニトニルン”の力を増したらしいのだがこう言う時はありがたい。
ちょっと話は変わるが、ミコト君のマスターであるジョゼットは順調に”野良召喚ゲート”の無効化に励んでいるらしい。ジョゼットとミコト君は互いに別々に活動しているが、使い魔としての在り方としてはどうなんだろうか?(別に互いを束縛する為に使い魔を呼ぶ訳では無いのだろうが)
ルイズや明人青年もジョゼットと同行しているらしく、2人の武勇伝は王城まで響いて来る。ジョゼットと違ってあの2人の活躍は分かり易いからな。それ自体は2人の将来に対してプラスに働くが、首尾よくゴドー伯爵家を継いだ(押し付けると表現すべきだろうか)場合あの2人がどんな領地経営をするか楽しみだな。
話を戻すが、メイジ化の基礎はエルネストが確立してくれた訳だが、奴にはそれを功績と考えていない節がある。そこで私達はその功績をとりあえずエルフ達に”肩代わり”してもらう事にした。実際にはIS(インテリジェンスソード)の研究開発を行っている訳だが、秘密裏に行っている為に研究内容は漏れていない筈だ。そんな訳で、
”ワーンベルのとある場所では、エルフと国が共同研究を行っている。その内容は、普通の人間をメイジにする方法なんだ”
という根も葉もない噂が入り込む余地があった。それに加えて、
”何でも、今度とある場所で研究結果を実際に試すらしいぞ”
という話が更に追加される。”とある場所”というのは、”新領土”ミデルブルグの事を指しているが、この辺りは情報が錯綜するだろうな。ミデルブルグ領は現在国の直轄地だが、名目上の領主は私の(名目上の)王妃の1人を任命した。クリシャルナはあまり政治方面には向いていないが、彼女がエルフでかつ王妃だと言う事が重要なのだ。
戦後色々な伝で噂をばら撒いたお陰で、ミデルブルグには色々な亜人が集まりつつあるが、逆に普通の人間はかなり減ってしまった。ツェルプストーの領民が元辺境伯を慕って予想以上に多く移住してしまったし、亜人が移り住むと聞いて逃げ出した領民も多い。そんな訳で、ミデルブルグ領に人を呼び込む必要があった為に、大規模な実験場とした訳だ。
1.正しく情報を判断出来る知恵
2.実際にミデルブルグに移住する実行力
3.他種族と共存出来る人格
4.何としてもメイジになると言う強い意志
先ずは、かなり難しいがこの4つを兼ね備えた人間を選りすぐってメイジ化する事になるだろう。未だに根絶出来ない不良メイジを大量生産する訳には行かないから、理想の”新メイジ”の姿を最初に作り出してしまおうとおいう考えだ。犯罪を撲滅する事は不可能だろうが、犯罪者に対する憧れなどは不要だからな。
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