第199話 ラスティン31歳(消失?)
「ティファニア姫、効果は上々の様です。まだもう少し様子を見ないといけませんが、ほぼ問題の無いレベルだと思いますよ」
「本当ですか? ありがとうございます!」
「いいえ、お礼を言うのは早い気もしますし、そもそもこちらが言うべき言葉ですね。ご協力を感謝します、プリンセス・オブ・モード」
「あの、その呼び方は・・・」
「これは失礼、ティファニア姫」
うーん、人見知りするのは仕方が無い面はあるのだろうが、今回の様な私的な活動以外にも人と会う様にした方が良いと思う。今回の”友人アルマント”の件では、強引にティファニア姫を借り受けた形になるから、個人的にアルビオン国王とモード大公にはお礼の使者を送る予定だったのだが、いっそ、公式に使節でも送るか?
モード大公には、かなり我侭を聞いてもらった訳だし、公には出来ないがこの試みはこの世界を救うというのは大袈裟だが、このハルケギニアが転生者の意思で混乱するのを防ぐと言う試みでもあるのだから、その最終兵器にはそれなりの礼をしなくてはなるまい? (この辺りは、ティファニア姫の望みを叶えてからだがな)
「ティファニア姫には、もう暫くこの国に留まって貰いたいと思います。その間に公立学校に行けるように手配をしておきます」
理事長先生は不在だが、サンディが居る。彼ならばティファニア姫を歓迎してくれるだろう。
「本当ですね、絶対ですよ?」
「ええ、その前に会わせたい、というか紹介したい人?が居るのですが、それは後ほど」
「はい?」
私はその答えを聞きながら、アルマントの居る隣室の方に視線を向けた。壁越しでは見えないが、そこには普通の人には見えない存在が居るし、ティファニア姫には彼女が”見えて”いたかも知れない。
「はいっ、是非!」
私の視線の意図を知ったティファニア姫が今度は元気に答えてくれた。直ぐに紹介しないのは、テティスが今回の試みに批判的だと感じたからだ。彼女は私とアルマントの一連のやり取りを間近で見ていた訳だが、最初は驚いて、そして次には不愉快さを隠そうとしなかったからな。
別に私の決断で私自身が恨まれるとか嫌われるならば仕方が無いし、この決断に対しては例え存在を消された本人から恨まれようと後悔はしない自信がある。そうだな、私自身意識して多くの人の人生を歪めて来たが、それを後悔しないですんでいるのは・・・。(駄目だ今は考えるな!)
「ところで明人君?」
「何でしょうか?」
「そんなに警戒する事はないさ、君は今暇だろう?」
「そりゃあ、ルイズが学院に通っている間はそうだが、いや、色々やることがあるぞ?」
「ちょっと、アルマントの話相手になってやって欲しいんだ」
「なんで俺が!」
「それは、君が適切だからだな。アルマントが何を覚えていて、何を忘れたかを知りたいのでね」
「それは・・・」
「ちなみに、私自身も色々忙しい。ロドルフは、まだ学生の身分だな」
「俺だって、学生だったんだけどな? 分かったよ!」
明人青年は、生まれながらにこの世界の常識も学んでしまっている転生者以上にアルマントの話し相手には適切だろう。アルマントには、この世界の常識も欠けている可能性もあるが、その辺りを教える事は後で誰にでも出来る。
万が一、アルマントが”思い出して”しまっても、明人青年なら十分対応可能だろうし、明人青年自身はゲルマニアに対して妙な先入観を持っていないのも利点だろうな。それを考えれば、明人青年に話し相手を任せるのは実に適切だろう? 押し付けたと言われても否定は出来ないが、私も出来るだけ顔を出す様にしよう。
しかし、今回の事は意外に上手く行ったな、もう少し何らかの抵抗とかぶり返しがあるかと内心警戒していたんだが、今の所そんな事は感じられない。もしかしたら、私の知らない所で何か起こっているのだろうか? はぁ、こんな事を考えて仕方ないな、公私共に問題を抱えている状態ではこれ以上問題を抱え込む事も出来無い。
「そうだな、行き詰った状態を打破する手伝いを私がさせられたとでも思う事にしよう!」
力を込めて独り言で責任転嫁してみたが、ナポレオン1世の方から見れば、いや、まさかな?
===
その夜になって気付いたのだが、ごく普通にティファニア姫と別れたのに私自身彼女の事をきちんと覚えていた。それ自体は在り得ない事では無いらしいが、その日以降王城でティファニア姫の容姿に関して色々な噂が飛び交うようになったのを知れば、彼女も試練を乗り越えたのだと言う事が理解出来た。
何故か虚無の担い手(含む候補)の魔法障害の治療に縁があるが、私自身が色々動いたのはルイズだけだった。ジョゼットに関しては知恵と技術を提供しただけだし、ティファニア姫に関しては単に利用しようとしただけだったんだがな。
本当に嬉しそうに、公立学校に向かうティファニア姫と当然の様に付き添うマチルダ嬢を見送りながら私はこれから始まる忙しく、そして私にとっては皇帝などよりももっと重要な問題について考えていた。
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