第173話 ラスティン30歳(疲れる人達)



 何故か、私が”義母殿”の治療と看病をする事になった。


「陛下、部屋を用意してありますが、休んでいかれますか?」


 そんな事をヒポグリフ隊長が言い出したのを怪しむべきだったのだが、”義母殿”が気絶したまま運び込まれた病室に案内された後では、どうしようもなかった。


「それでは陛下、私は水系統は不得意ですのでよろしくお願い致します。義理でも親子なのですから積もる話もあるでしょう?」


 そんな事を言って、エロワさんが颯爽と病室を出て行ってしまった。どう言う訳か、私の部下達は私を嵌める事が大好きらしい。どう考えても怒り狂った”公爵夫人”の相手をしてババを引く役を押し付けられたのだろうが、これは他人には任せられない話だな。


 仕方無く治療を行ったが、軽い脳震盪だという事は私にも分かったので、体のそこかしこにあるかすり傷を治療するだけでメイジとしての私はお役御免だった。


「んっ」


「お目覚めですか、義母さん」


「ラスティン?、いえ、陛下」


「何処か痛みますか、義母さん」


 こんな風に呼びかける意図を察して欲しい物だがね?


「いいえ、大丈夫よ。この間は、貴方を見舞ったばかりなのに、立場が逆ですね?」


 その事は、少し考え中だったから、話題を強引に変えよう。


「ルイズはどうでした?」


「ええ、強くなったわね、鍛錬を欠かした事は無かったのにね、私ももう歳かしらね?」


「いえいえ、まだまだお若いですよ。ただ、自分が”お祖母ちゃん”だという事は忘れないで下さい」


「そうね、確かにあのカトレアに子供なのですからね」


 妙に染み染みと言った感じで、義母が同意してくれたのは意外だった。カトレアもルイズも母親としては目が離せなかっただろうからな? ノーラはどうだったのだろう、考えるまでも無く、私の妻になったんだから他の娘の誰よりも目が離せなかっただろうな。


「はい」


「ラスティン、エレオノールだけど何時でも帰してもらって構わないわ」


「はぁ?」


 何を言っているんだ、このオバサンは! 私がノーラを手放す筈が無いだろうに、ノーラが万が一、(本当に有り得ない・・・)離婚するとか言い出したら私はどうするんだろうか?


「それとね、私達家督を譲る事にするわ」


「なっ!」


 こちらは個人的にではなく、国、いや、国際的に大事だ。ラ・ヴァリエール公爵からも軍がゲルマニアへ侵攻する手筈になっているんだからな。ラ・ヴァリエール公爵も同意(戦略の説明をしたらすっごく嫌な顔をしたがな)している筈なんだが、どう言う積りだ?


「安心なさい、今度の戦争が終わったらよ」


「脅かさないで下さいよ、エルネストに戦争は無理でしょうからね」


「そんなの、貴方の部下達が何とかするでしょう?」


 私の部下と言うより、キアラの後輩なんだがね? あの双子が戦争に向いているとも思えないがな。


「はて、何の事でしょうか?」


「・・・」


「・・・」


 何故病室で睨み合いになっているんだろう? この女性とここまで真剣に話した事は無かったな。


「まあ、良いわ。私が認めた男達がそうしたいと言うならば、野暮な事は言わないでおきましょう。ただし!」


「ただし?」


「ラ・ヴァリエール公爵家が無くなる様な事があれば、話は別だわ」


 全く、貴族と言う奴はこれだから困るな。誇りある死とかに意味を見出せる精神は持っていないし、何より誇りではお腹が膨れないんだ。


「それに関しては、国王として確約はしかねますね。ただ、貴方が認めたエルネストを信じてやって下さい」


「ふん、上手く逃げた積りかしら?」


「どうとでも、そうだ、平賀明人は義母さんの眼鏡に適いましたか?」


「・・・、そうね、まだまだ伸びると思うわね」


「彼に領地を与えるとか考えていますか?」


「さあ、それは出来ないと思わないかしら?」


「ええ、ルイズに何処か領地を与えて、その夫にと言う考えもありますけど、それは不要に願います」


「あら、どうしてかしら?」


「そうですね、彼は今度のゲルマニアとの戦争で”英雄”になる予定ですからね」


「昔の貴方みたいに?」


「いいえ、虚像では無く本物のですよ」


 予定では、ゲルマニア皇帝か宰相のどちらかを”討ち取る”筈なんだからな。


「面白そうね、是非詳しく教えなさいな」


「残念ながら、これは国家機密になりましてね、公爵夫人?」


「それは失礼したしました、陛下」


 はぁ、やっぱりこの女性の相手は疲れるな? いや、義父の方もあれはあれで疲れるんだがね。

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