第155話 ラスティン30歳(主従衝突)
「我が名はルイズ・ド・ラ・ヴァリエール! 五つの力を司るペンタゴンよ。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ!」
スタスタと明人青年に近付いていったルイズは早口に呪文を唱えると、そこだけは乙女らしく頬を紅色に染めながらそっと背伸びをしながら明人青年に口付けした。明人青年の方も満更では無かった様だな、明らかにルイズの唇から目が離せなくなっているし。うん、初々しいな。まあ、その後のルーンを刻まれる痛みで帳消しになってしまったようだがね。
「儀式は成功ですかね」
「はい、ミスタ・バルザック。ミス・ヴァリエール、もう彼と会話が出来る筈だよ? とりあえず自己紹介でもしたらどうかな?」
「は、はい。私はルイズ、ルイズ・ド・ラ・ヴァリエールよ。貴方の名前を教えてくれるかしら?」
「本当にあれだけで、言葉が分かる様になるんだな。名前だったな、俺は”平賀明人”だ、よろしく頼むよ、お嬢さん?」
「お嬢さん? まあそれは否定しませんけどね、貴方よりは修羅場をくぐっている自信はあるわ?」
「修羅場って、君みたいな可愛い女の子が?」
「かっ、かわい・・・」
うむ、実に分かり易い反応だな、ルイズは昔からこうだった気もするが、明人青年の方もまあ、誑しだよな?
「で、修羅場っているのは?」
「この国の人じゃないと説明し辛いわね。貴方の国には、亜人とか幻獣とか居るわよね?」
「はぁ? ああ、ここは魔法がある世界だったな。話の流れからすると、ライオンとか虎なら居るぞ?」
「動物園にね? そうだな、ライオンと言うのは、飛ばないし毒の尻尾を持っていないマンティコアみたいな物かな? 少し小振りだけどね」
「なーんだ、それなら10匹居ても、相手出来るわ。別に戦う必要も無いしね」
「本気か?」
「ええ、私はそう言った有害な生き物を狩る為に修行して来たんだから!」
「信じられな」
”ドカン!!”
明人青年の不審は呪文一発で霧散した様だ。今度は明人青年の方がぽかんとしている。意外とお似合いの2人かも知れないぞ? 本人達は思いっきり否定しそうだけどな。しかし、呪文の完成が早い上に、威力も上がっている気がする、義母はルイズを相当鍛えたらしいな。確かにこれなら、メイジが数人束になってもかすり傷さえ与えられないだろうな。
「分かったかしら、素人さん?」
「何を! 俺だって真面目に剣道をやってきたんだぞ! 高3の時は全国大会で良い所まで行ったし」
「それで?」
「それでって?」
「分からないの? 明人はどれだけの獲物を仕留めた事があるの?」
「獲物? 仕留める?」
ルイズの物騒な表現に、明人青年の顔が引きつってしまった。まあ、ルイズみたいな女の子が言うには確かに物騒だがね。
「そう、何とかって大会に出て勝っても意味が無いでしょう?」
「意味が無い?」
「だってそうでしょう、死ぬか生きるかの場面で、何とかの大会の順位が影響するとでも?」
「・・・」
「ミス・ヴァリエール、言い過ぎだよ。彼の生きてきた国は平和だったんだからね」
ロドルフがフォローに入ったが、あまり庇いすぎるのは拙いぞ?
「ミスタ・アンジェ! まあ良いですよ、出来れば後で詳しく彼の国について教えていただけますか? 東方なんでしょう?」
「おっと、機会があれば喜んで、ただね、今は明人君の事だろうね?」
「そうだったわね、明人、犬と呼ばれたくなかったら、強くなって!」
「強くか・・・、犬というのは気に入らないが、強くなるのは望むところだ!」
「どうやら意見が合ったみたいだね、良ければここで2人の実力を見せてくれないかな?」
「「ちょっと待って!」くれ!」
「息もぴったりだね。まあ本気で殺し合えと言う訳じゃないよ。お互い相手の力量を知りたいだろう?」
「そうね、どうやって鍛えるか考えないとね!」
「おい、ロドルフ! 別に俺は知りたくもない、俺を殺す気か?」
「特典があるって言っただろう?」
「だが!」
「大丈夫よ、直撃はさせないから。治療が面倒だし、エルネスト兄様にお願いするのも気が引けるからね」
「だってさ?」
「くそっ、やるよ!」
「その言葉を待っていたんだ、明人君、君にあれを渡そう」
そう言ってロドルフは少し離れた場所に置かれていた一振りの”刀”を明人青年に渡した。ここまで都合良く話が進むとは思わなかったが、ロドルフが上手く引っ張ってくれたな。(さすがに華奢と言っていいロドルフには重かったらしく、レビテーションで浮かせて運んで来たらしいぞ?)
「これは日本刀? だがそれにしては大きいな?」
「そうだね、分類的には大太刀かな? 僕も詳しくないけどね。デルフ、この人が君の使い手だよ」
「なんと! このお方が? ・・・、確かに”使い手”でござるな!」
「間違いないみたいだね?」
「使い手に再び会えるとは思ってもござらんかった!」
「おい、この刀喋ったぞ?」
「ああ、IS、インテリジェンスソードだからね。こちらでは珍しくないよ。かれはデルフリンガーという名前なんだ、名剣、じゃなくて名刀だよ」
「そのISというのは、全部こんな時代劇みたいな喋り方をするのか?」
「何かおかしいかな?」
「ソードなのに、日本刀で、時代劇風の喋り方をして、洋風の名前を持ってるってどうなってるんだ?」
「それは、色々あったんだよ!」
===
そう、色々あったんだ、まあ、私がもしもの時の為にデルフリンガーの予備の刀身(からだ)を用意したんだが、まあ、多分歴史(もしくは無意識)に引っ張られたんだろうな日本刀にしようと思ったんだ。魔法の吸収力や、刀としての性能(丈夫さと切れ味)を考えると、どうしてもこの大きさになってしまったんだよな。(熟練した使い手ならば、カバーして振るえるのかも知れないが、どうなるか読めなかったからな)
そして、予備の身体を用意してそちらに乗り移る事が出来るのを確認した途端に、ロドルフが実験と称して”やって”しまった訳だ。使い手が居ない状態で、どれだけ魔力を吸い込む事が出来るか?なんてどう考えても狙ってやったとしか思えない。当時はまだトライアングルだったロドルフだったが、女性らしい根気と、男性らしい思い切りの良さ(悪く言えば、女性らしい執念深さと男性らしいずぼらさだろうか?)で朝昼晩と魔法を吸収させていって一週間ほどで限界が訪れたと言う訳だ。
「もう少しは吸収できると思ったんだけどな?」
と本人は全く悪びれず報告してくれたが、転生者メイジの総魔力量を考えれば想像出来ない結果では無かった。入れるばかりで出さなければ何時か破綻するのは当然なんだから、注意をしておくべきだったかも知れないが、まあ、無駄だったろうな。
後になって分かったんだが、ロドルフが何をやりたかったと言えば、ISを初期化すると言う状況の確認とISの再教育の実例作りだったんだよな。普通のISでは刀身(研究の成果で今では剣じゃなくても、殆ど支障なくある程度の人格を植えつける事が可能になっているから仮にだが)を壊してしまえば剣を打ち直しても復活しないから、これには彼の試みにはどうしても”デルフリンガー”を使う必要があったのだ。(データ取りとか実験材料になってしまったデルフ君には気の毒としか言い様が無い)
ロドルフ自身は、記憶の混乱に付け入る形で、デルフの再教育を試みた訳だが結果はご覧の通りである。何で時代劇みたいな喋り方になったかは、
「え? 日本刀なんだからこっちの方が良いんじゃないですか?」
とか簡単に流された。いや、日本刀をイメージして新しい”身体”を作ったのは私なんだが、そんな意図は無かったぞ? 多分ロドルフの趣味なんじゃないかと推測するが、今更追求しても”おでれーた!”は2度と聞けない訳だ。それを少しだけ寂しく思うのは私の感傷なんだろうな?
===
「良いかい、明人君。他のメイジなら兎も角、ルイズと戦う時は真っ向勝負はダメだ。避けて避けて避けまくるんだ」
「それって、一方的に攻められているだけじゃないか?」
「そうかい? それならとりあえず、素手で挑んでみるかな、君も男だろう?」
「くっ! 良いだろうやってやるよ!」
明人青年はまんまとロドルフの口車に乗せられてしまった様だ。剣道を齧っていた程度では、ルイズには太刀打ち出来ないだろうに。(こう言う時のロドルフのって本当に生き生きしてるよな?)
「それじゃあ、僕が合図したら決闘を始めるで、双方良いかな?」
「ええ、良いわ」
「構わないぜ!」
いや、ガンダールヴの能力を使わずにどうやって勝負する積りなんだろう? 一応手には竹刀を構えた(デルフはロドルフが返された形だな)が、左手のルーンは輝いている様には見えない。(籠手の下だから良く見えないんだが、竹刀を武器と認識していないんだろうな?)
「始め!」
「たぁ?」
”どかん!”
「動かないで、本当に当てるわよ?」
「それまで!」
うん、駆け出そうとした明人青年の足元が爆発して、動けなくなりそのまま決闘は終了となった、予想通りだな。いや、全然決闘になっていないし、解説を入れる暇も無い。
「おい、やっぱりこんなの勝てるはずが無いだろう!」
「そうでもないんだけどね?」
「どうやら、犬にも劣るようね?」
「・・・」
「ミス・ヴァリエール! 少し言い過ぎじゃないか?」
「いいえ、言わせていただきます、ミスタ・アンジェ。犬でも自分より強い者にむやみに吠えかかったりしません! アキトとか言ったかしら、貴方には生き残って強くなって欲しいの!」
「だそうだよ、意外に熱いねルイズは・・・」
私にとても意外だったな、私の記憶の中には小さい頃のルイズが印象強い為か、何がここまで言わせるのか首を捻りたくなる。
「・・・、無理だろうあんなの!」
「そこで、デルフの出番なんだけどね。明人君がその気なら力になってくれるよ。君は、ルイズの期待に応える気は無いかな? 綺麗な・・・、いや可愛い女の子があそこまで言ってくれるなら、例え死んだとしても男として本望じゃないか?」
「それは・・・? お前どっちの味方だよ?」
「勿論どちらもさ。どうだいやる気になった?」
「どうも信用出来ないんだが?」
明人青年の台詞は尤もだろうな、どうもロドルフは面白がっている感じだ。もう既に予定の行動をかなり逸脱している。
「そうかい? でも彼女に良い所が見せられれば、彼女も君の事を見直してくれると思うよ?」
「分かったよ、騙されてやるよ。骨だけは拾ってくれよ?」
さて、第二回戦が開始される様だが、どうなる事やら?
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