第110話 ラスティン23歳(4人寄れば文殊の知恵:後編)
「3人からの報告は以上ですけど、私の方からも補足しておくことがあります」
「まだ、何かあるのか?」
やっぱり最後をまとめるのは、キアラだな。
「はい、ゲルマニア皇帝が戦死すれば、宰相も困った立場になるはずですが、彼が動かないのが気になりませんか?」
「それは、うん、確かにそうだな。マテウス・フォン・クルークが、ロベスピエール4世の思惑を見破れるとは思えないが、慎重な人間なら、ゲルマニア軍の快進撃が出来すぎだと感じてもおかしくないだろうね」
多分、異常な発想?と、様々な知識と情報、そして、ロベスピエール4世の人となりを知っていなければ、今、皆が話してくれたような結論には辿り着かないだろう。多分、私達と同じ結論に辿り着けるのは、ガリアの王太子だけなのだろうな。
「ゲルマニアの中心まで人を送り込めていないので、はっきりした事が分かりませんが、我が国としてはゲルマニア皇帝には生きてゲルマニアに戻って欲しいですね」
「そうなのか?」
「はい、皇帝派と宰相派の溝が深まる事になるでしょうから。若き皇帝が敗れたとは言え、ガリアと言う大国を苦しめたとなれば、不利と思われる皇帝派が力を盛り返すでしょう」
「ナポレオン1世は、死んでも、生き残っても酷い目に会うのか。ガリアにとっては・・・、まさか!」
「そうです、もしかするとゲルマニアの内部分裂にも、ロベスピエール4世が関わっているかも知れません」
「正に”神算鬼謀”だな」
「え?」
「いや、何でもない」
「それでは、次に移ります」
「まだあるの?」
「ラスティン様、言葉遣いが!」
「いいから、続けてくれ」
「仕方がありませんね。これも推測になりますが、ロベスピエール4世は故意に自分の権威や名声と言ったものを貶めようとしたのではないでしょうか?」
「??? 良く分からないんだが?」
「そうですね、こう考えてみてください。今の権勢のまま、ロベスピエール4世からジョゼフ王子に王位が引き継がれたとしたら、どうなるでしょう?」
私は試しに自分がジョゼフ王子だったと仮定して、思考を進めようとしたのだが、ダメだあれに感情移入なんて出来ないぞ!
「分からないな」
「諦めるのが早過ぎです!」
むう、それなら、仮に私がフィリップ4世陛下から王位を継いだと仮定してみよう、これは決して有り得ない事ではないから、意外とすんなり考えを進める事が出来た。うん、何だか上手くやれるような気がするぞ、脳内シミュレーションに過ぎないのだが、アルビオンから来たフィリップ4世陛下よりは抵抗が少ないだろうしな。ああ、そう言う事か。
「優秀すぎる王は次代の王にとっては、重荷だと言う事かな?」
「はい、先王が偉大であればそれだけ、後継の王は先王と比較される事になります。ジョゼフ王子がラスティン様の言う様に優秀な方だったりしたとしても、かなりやりにくいでしょうね」
「それは、分かったが、キアラだって若いのに良くそんなことに気付くな?」
「ああ、生徒会の方で、ジェフ君が苦労したと言っていましたから」
生徒会と国の運営を同じに考えるものどうかと思うが、組織の本質と世代交代と言う意味では同じなのだろうか?
「これで終わりかな、さすがに」
「はい」
一石二鳥とはこちらでは言わないが、ロベスピエール4世は一個の石で一体何羽の鳥を落としただろうか? 数えるのもうんざりだな。しかし、大国ガリアの王がここまでの策謀を操ることが出来て、よくここまで我が国が生き残れたものだ。我等が陛下の人徳と言った物なのだろうな。私などが”王”として振舞えば、確実のあの大王の目に付いて、プチっと潰される気がする。
そうだ、さっき、何となく答えた私の回答はキアラ達にはどう評価されたのだろう?
「少し疑問なのだけど、私はキアラに”ラスティン様なら、今のガリアをどうするか?”と聞かれた時に、オルレアン派の貴族達を、1つ1つ潰して行くと答えたが、これは拙いのかな?」
これは私が、この国の貴族に対応していく為の基本方針だから(いや、全ての貴族を潰すとは考えていないぞ?)、ここに問題があるのは非常に困る・・・? この事はキアラも知っているのだから、拙いはずは無いのだが。キアラは私の質問に少しだけ、悲しそうな表情を浮かべると、こう答えてくれた。
「オルレアン派の貴族達が内乱や独立の準備を、終える前に手を打ちたかったのでしょう。それに・・・、多分、ロベスピエール4世には時間が残されていないのでしょう」
「そうか・・・、あの大王がな・・・」
トリステインの副王としては喜ぶべきなのだろうが、少しだけ寂しく感じたのは否定出来ないな。この執務室にいる皆も心なしかしんみりとしている。そんな中、場の雰囲気を和ませる為にキアラが明るい声で、こんな事を言い出した。
「それにしても、ロベスピエール4世が、ゲルマニアの方を選んでくれて良かったですね」
「あ?、キアラさんや、もう一度言ってくれるかな?」
「ラスティン様、今日は少しおかしいですよ、少しお休みになった方が良いのでは?」
何か心配されてしまったのだが、キアラの言った事はちゃんと聞こえたぞ? ただ、何と言うか、脳が受けつかなかっただけだ!
「すまない、もう一度言ってくれるかな?」
「はい、ロベスピエール4世がこの策略の標的を、トリステインからゲルマニアに変えてくれて良かったですね、と言いたかったんです」
さすがに間違えようが無いが、キアラが明るく言ってくれた台詞は、キアラ以外をかなり驚かせたのにキアラ自身は気付いていない様だ。(天才って奴は、こう言う所があるな、エルネストとかが代表だろうが)
確かに言われて見れば分かるのだが、ロベスピエール4世がこの計略を思いついたのは、王位継承権争いが始まるのと前後してなのだろう。準備もその頃から始めて居たんだと思う。
シャルル王子が勝ったとすれば、不発に終わりそうだが経過を見ながら進めていれば、それ程無駄にならないだろう。まあ、シャルル王子が勝ったとしても何か仕掛ける予定だったのかも知れないがな。
うん?現実から目を逸らすなだって、そうは言われても考えたくない事はやっぱりあるのだ。ロベスピエール4世がこの計略を思いついた当時はゲルマニアは政変の真っ最中だった訳だから、計略を仕掛ける相手は、そう、我が国だった筈なのだ。
オルレアン派の貴族達の領土までは少し遠いが、決して軍を進められない距離では無いし、国境に面する領土を持つ貴族達は、結構武闘派が多い。レーネンベルク特産?のジュラルミン盾とチタン剣を国以外で最初に買い上げたのも彼らだった筈だからな。(武闘派という印象が無い、ラ・ヴァリエール公爵でさえ、ツェルプストー辺境伯と何度も杖も交えている程だからな)
「何が、”ワシは、フィリップ4世を良き隣人だと思っておるよ”だ、陛下を嵌める気満々だった訳じゃないか!」
私の愚痴は、事情を知っているキアラ以外には分からなかった様だ。全く、しんみりした空気が台無しじゃないか!
===
キアラ達が去って、執務室の雰囲気が一段落ついた事を感じたから、議論の最初の方から一言も発言しなかったコルネリウスに話しかけてみる事にした。コルネリウスとしても、ゲルマニア軍の兵士数万が全滅すると聞けば心穏やかでは居られないだろうな。
「”アルマント”、やっぱり、ゲルマニアの兵士達が気になるか?」
「・・・」
「おい、コルネリウス!」
「あ、ああ、すまん。何だったかな?」
私が、更に話しかけて、軽く腕を叩くとやっと反応が返って来た。コルネリウスも疲れているのだろうか?
「ゲルマニアの兵士達の事なら、お前の責任じゃないんだから気にしない事だぞ。それにナポレオン1世が、首尾よく戦死してくれれば、お前の立場が重要になって来るんだからな」
「ああ、そうだな・・・」
「もしかして、お前も疲れているのか? まあいいさ、今日の仕事はここまでにしておこう」
「良いのか?」
「良いのさ、キアラにも言われたけど僕に疲れが溜まっているのも事実だからな」
「その言い方だと、副宰相殿に言われたから休むように聞こえるぞ?」
「まあ、その通りだな。僕は、キアラに頭が上がらないからな」
全く自慢にならないがな、まあ、キアラに面と向かって逆らえる人間は少ないんじゃないかな?
「笑えない冗談だな?」
「”アルマント”、お前はキアラに逆らう気があったりするのか?」
「・・・、無いな」
「だろ?」
何となく、2人で笑い出しながら、今日の執務を終える事にした。ガリアの件以上に、急ぎの案件も無いから問題無いだろう。久々に落ち着いて、ゆっくり眠れる様な気がするな。
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