第97話 ラスティン21歳(大王との対話)


 はい、こちら絶賛放置状態のラスティンです。皆様いかがお過ごしでしょうか? 軟禁状態と言い換えても良いかも知れませんが、状況が改善される訳では無いので、放置されていると思っています。同行してきた警備隊とも引き離されていますし、先程妙な所にいたクロディーとも会えそうにありません。

 一応、部屋の扉の前で警備をしているガリアの兵士に話しかけてみたのですが、芳しい反応はありませんでした。と言うより、話しかけられても無視するように言われている感じです。ニルヴァーナやキュベレーと話していても状況は改善しないですしね。(抜け出すだけなら幾らでも可能ですが、立場上そういう訳には行きません)

 食事は出されていませんから、まだ夜と呼ぶには早いと思いますが、何時までこの状態が続くのでしょうか? そんな漠然とした事を考えていると、部屋のドアがノックされているのに気が付きました。僕の返事を待って部屋に入って来たのは、かなり立派な服を来た老人でした。あれ?見覚えが有る様な気がしないでも無いですね。


「ラスティン・レーネンベルク・ド・トリステイン様、陛下がお呼びです。どうぞ、こちらへ」


 僕の素性を知っているからには、服装の事も考えてかなり身分の人物なのでしょうね。うん?何かピピッと来ましたよ。


「大臣殿でしたね、ご壮健でいらっしゃいましたか?」


「はい、陛下のお陰をもちまして」


 危ないですね、危うく大臣Aと呼びかける所でした。この人は、どちらの王子に付くのかな?なんて考えましたが、考え違いを気付きました。この人は今も昔も、ロベスピエール4世派なのでしょうね、そうでなければ大臣に任じられる事などあるはずがありません。僕に対して腰が低くなったのは、僕が曲がりなりにも王族になったからなのでしょう、実感はありませんが。


 大臣A(いや、名前も役職も覚えていないので)に案内されて、見覚えのある部屋に入る事になりました。やはり、ロベスピエール4世と会うのは緊張します。質問されて、勝手に考えている事を読まれるのは面白い経験では無いですからね。


「良く来たな、ラスティン・レーネンベルク・ド・トリステイン」


「陛下も御壮健でなによりです」


「お前も副王になったんだろうに、堅苦しい挨拶は抜きだ。まあ座れ、食事はまだだろう?」


 うん、怪しいですよね? あの、ロベスピエール4世がこんなに気さくに食事を勧めてくるなんて、明日は雪が降るかも知れません。


「陛下のお陰を持ちまして副王などと言う重責を任されまして、戸惑うばかりで御座います」


「そうか、そなたも大変なのだな。一杯どうだ?」


 皮肉も無視ですか、貴方がウチの陛下に変な事を吹き込まなければこんな事には成らなかったかも知れないんですがね。酒など飲まされたら、何を読み取られるか分かりませんからね。


「いいえ、副王として修行の身ですので、ご遠慮申し上げます」


「ふん、可愛げが無くなった物だな。そう警戒するな、今日は私は機嫌が良いからな」


 ロベスピエール4世の表情は、覚えている物に戻りましたが、口調はあまり変わりませんでした。あれ?本気で浮かれていたりするのでしょうか? 少し突っついてみましょう。


「言い忘れておりました。王位継承者が決定された事、お祝い申し上げます」


「そうか、そうか、中々、本心からそう言ってくれる者も少なくてな」


 それはそうでしょうね、今は微妙な時期ですから、僕の様な部外者ではなければ、気軽に話題にも出来ない筈です。これは拙いかなとも思いながら、何気無く装って重要な点を話題に上げます。(引っかかってくれるでしょうか?)


「ジョゼフ王子もこれから大変ですね?」


「そうだな、ジョゼフの働きに期待するとしようか?」


 ダメでした、簡単には本音は引き出せないですね。守りに回るのは避けたいですし、今回も本音で攻める事にしましょう。時間の無駄ですし、折角の食事が美味しくないですからね。この人を相手する場合は、それが意外と良い選択なのかも知れません。(幾らなんでも、気軽に隣国の王族を暗殺しないでしょうし、大丈夫ですよね? ね?)


「もう止めましょう陛下、腹の内を探り合っても面白く無いでしょう?」


「何だ、もう降参か! つまらんな」


 本気でつまらなさそうに、ロベスピエール4世が言いました。むぅ、遊ばれていたのでしょうが、何が楽しいのでしょうか?


「シャルル王子を推していた貴族達は、どうするのですか? 我が国としても対応策を考えておきたいのですが」


「ワシの方からは動かぬさ。奴らがどう動くかは、奴らの才覚次第だな」


「シャルル王子が、もしこちらに逃げ込んできた時は、保護させていただきますが?」


「そんな事になると思うか?」


「いいえ、今の発言は、”ラスティン・ド・レーネンベルク”としての発言と思って下さい」


「立場を使い分けるか、間違えねば良いがな。まあ、シャルルも親孝行な娘を持った物だな」


 やはりバレバレですか、予想していた通りですが、シャルル王子が大公になれば、ジョゼットの立場が弱まり、結果ジョゼットの自由が保障される訳です。レーネンベルクとしては、言う事無しですね。トリステインとしては、外交的な切り札を失う結果ですが、使う気の無い札がどうなっても気になりません。こちらの陛下もここは問題としない筈です。


「シャルルも、もう少しやってくれると思ったのだがな? 今日の事で少しは目を覚ましてくれると良いのだが」


「陛下は、シャルル王子に期待されていたのですか?」


「期待していたとも、お前は随分と手厳しいな」


 どうせ当て馬としてとかでしょうね、などと皮肉な事を考えていたら、思わぬ事を言われました。


「今は、お前に期待しているよ。ゲルマニアのあれは期待外れだったからな」


 ”お前に期待しているよ”と言う嫌な予感のする部分は無視する事にしても、”ゲルマニアのあれ”は聞き捨てなりません。


「陛下は、ナポレオン1世にお会いになったんですか?」


「なんだ、お前はあれを気にしているのか?」


「宜しければ、どんな人物なのか教えていただけませんか?」


「ふむ、好戦的な野心家といった所だな。先帝とは似ても似つかぬよ」


 好戦的な野心家と言う評価も気になったのですが、僕には先帝の下りの方が気になりました。


「陛下は、ゲルマニアの先帝と仲が宜しかったのですか?」


「仲が良い? そうか、そういう解釈も出来るな。お前も、ジョゼフと仲良くやっていって欲しい物だな」


「お忘れかも知れませんが、私は、単なる”副王”に過ぎません。その副王の座も何時まで続くか分からない状態です」


 自嘲気味に言ってみましたが、ロベスピエール4世の表情を見て、拙いと思い言葉を強引に続けました。


「ですが、ロベスピエール4世陛下。我が国のフィリップ4世陛下に妙な事を吹き込むのは止めていただきたい」


「ははは、先手を打たれたか? ちなみにワシは、フィリップ4世を良き隣人だと思っておるよ」


くっ! 僕が以前に使った論法を使って来ましたよ。本当に楽しそうですし、性格の悪い王様ですね、やっぱりフィリップ4世陛下の方が、安心出来ます。今のロベスピエール4世の言葉は、我が陛下には、客観的に報告する事にしましょう。(主観を混ぜると、要らない波風を立てる事になりますからね)


「陛下は、ゲルマニア宰相には?」


「ああ、先帝がまだ在位していた頃に何度かな。何があれを、あそこまで狂わせてしまったのか?」


 それは、心当たりがありますが、変に考えると読まれる可能性があるので、故意に意識から外します。


「やはり、ゲルマニアには注意が必要ですね?」


「ふん、あの程度の国がガリアに対抗出来ると思うか? 何かあっても手出し無用に願おう」


「そういう事であれば、我がトリステインがゲルマニアと対した時も手出し無用に願います」


「本当に可愛げが無くなった物だ」


 何故本気で嘆かわしそうな表情をするのでしょうね? まあ、この王様が表情や言葉通りの事を、考えているとは限らないですが。


「そうだ、お前に褒美を遣わそう? そうだな、今回は関税の低減などとは言わぬ。撤廃してやろう!」


 今度も怪しいですね、どう考えても、今回、こんな褒美が貰える様な事は一切やっていませんからね?


「はて、褒美と仰いますが、私は何をやったでしょうか?」


「何を言う、お前の提案あってこそ今日の式典が、行えたのだろうに」


「その件は、既に褒美を頂戴しております」


「なに、ワシの気持ちだ、受け取るが良い」


 ダメだ、何かあるのは分かっていますが、ロベスピエール4世の意図が掴めません。ですが、ふと今日見たボードの事が思い出されました。シャルル王子のお陰で、ガリアの多分、有力な鉱山が1つ潰れたはずです。そうなると・・・!


「さすがガリアの大王と呼ばれるだけの事はあります。その慈悲を、是非ロマリアの民にもお与え下さい」


「そうか、良かろう」


 ロベスピエール4世は鷹揚に頷きましたが、僕の反撃は上手く行った様です。これで、少なくともガリアだけが、利を得る事は無いはずです。これでガリアからロマリアへの工業品の転売での利益確保は表向き難しくなった筈です。


「褒美がいただけると言うのであれば、もう1つお願いがあります」


「言ってみるが良い」


「ガリア王家の双子の関する慣習を改めていただきたいのです」


「今になってそれを言うか?」


「今だからこそです! 陛下は双子が不幸を招くなどをは、信じていらっしゃらないのでしょう?」


「何故そう思う?」


「陛下の御二人の王子が、王位を争っていた事が、それを証明しています」


 双子が国に災いを招くなら、迷信を除けば、同位の存在が2人居るからでしょう。目の前の王がそれを知らないとは思えないですし、知った上で2人の王子を争わせたのは明白ですしね。


「・・・、それで、ワシに何をしろというのかな?」


「ただ、双子が生まれた時の慣習を廃するとだけ、王として発言していただければ構いません」


「ほう、それだけなのか?」


「陛下ならば、今のご自分の言葉がどれ程の影響力を持っているかご存知でしょう? それに、今しか無いのです!」


 今後はガリアの権力は少しずつ、ジョゼフ王子に引き継がれていくでしょう。ジョゼフ王子が王になってから十分な権力を持つまでには時間がかかりますし、ジョゼットをまだ表に出すのは早いでしょう。そんな事を真面目に考えましたが、ロベスピエール4世は真剣な表情でこちらを見ています。あれ?読まれて拙い事は考えていないんですが?


「ふん、まあ良かろう」


 少し妙な感じでした、もしかして孫と会いたいとか妙な事を考えているのではないでしょうね? でも、まあ、ジョゼットもお爺ちゃんには会いたいかも知れませんね。(僕も祖父とは、きちんと挨拶がしたかったと思うことがありますから、想像が出来ます)


「ところで、話は変わるがな」


「はい」


「お前が、ジョゼフに付けた小兎だがな、少々いたずらが過ぎる様だ」


 僕は、一瞬言葉を失いました。小兎ね、クロディーは女性としてはかなり大柄なので、小兎と言う表現を受け付けなかったのです。ガリア王家の男性は、立派な体格しているので、クロディーでも小兎と例えられるのかも知れません。それにしても、小兎ね??


「そうですか、では、私はその”小兎”を褒めなければいけませんね。短期間で陛下のお目に留まる様な働きをしたのですから」


「貴様、本当に可愛げが無くなったな。まあ良かろう、部屋に戻るが良い。宮殿内も落ち着いたであろうから、護衛共とも合流するが良い。懲りずに、また、ガリアを訪ねてくれよ?」


「はい、お呼びがかかれば、私は我が陛下の手足ですから」


 こうして、気の抜けない対談が終わりました。はぁ、ロベスピエール4世と話すと疲れますね。そう思って、控え室に戻りましたが、まだ今日は終わっていませんでした。

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