第58話 ラスティン20歳(馴染みの人達来る)


 魔法学院を卒業して早くも1年が過ぎようとしていました。僕はこの1年を振り返って、何だか来訪者が多い1年だったなと思いました。これから来訪者が減るという訳でもないのでしょうが、招かれざる客は遠慮したいものですね。


☆エレオノールの我侭


 何故か突然、エレオノールがワーンベルにやって来ました。時期的に言えば、学院の卒業式が終わって直ぐにここに来たのかも知れません。前回の手紙では、公開卒業発表の発表者に選ばれた事が嬉しそうに書かれていたので、”聞きに行く事は出来ないけど、頑張るんだよ!”と激励の返事を出しておいたのですが、もしかすると、聞きに行かなかった事に不満があったのでしょうか?


 エレオノールの発表内容は、”風石を用いた電気の発生方法”だったはずです。何でも僕が以前話した、電池の話にヒントを得たそうです。彼女の使い魔が、土魚(アース・フィッシュ)だった事も、影響していたのでしょう。ステイとい名前を付けられた使い魔でしたが、非常に変わっていて地中を泳ぎまわり、何と風石を溜め込む性質があるそうなのです。(この性質は個体差があるので、風石だけを集めるのに向いていないと聞かされた時は、少しがっかりでした)


 私人としての客だったので、応接室ではなく代官の私室にエレオノールを招き入れました。確かにエレオノールがここにくるのは始めてですが、それにしてもエレオノールは何故か緊張気味です。


「こうして直接会うのは、去年の夏以来だったかな? 発表を、見にいけなくてごめん」


「いいえ、それは事情が分かっていますから、問題無いです。それは、兄様に見て貰いたかったのは、事実ですけど・・・」


 エレオノールは途中で口篭ってしまいました。本当にどうしたんでしょう、エレオノールらしくない振る舞いが多い気がします。


「エレオノール、もしかしたら、何か僕に相談したい事があるんじゃないのかい?」


 エレオノールが、ビクンと反応しました。何となくそんな事を感じたので聞いてみましたが、当たりだった様です。


「やっぱり、兄様には隠し事は出来ませんね。実は、王立魔法研究所に研究者として来ないかと誘われているのです」


 これは、エレオノールから、発表をすると手紙を受け取った時点で想定されていた問題なので、特に問題は感じていなかったのですが、そういう事では無い様です。もしかして、あの事かなと思い当たる事はあるのですが、もう少し話を聞いてみましょう。


「君がどうしたいのか、聞かせてくれるかい?」


「私がどうしたいかですか・・・」


 エレオノールは、そう言って真剣に悩み始めてしまいました。いいえ、正確にいうならば、自分が悩んでいることを、”自分がどうしたいか?”という面から見直しているのでしょう。


「兄様だったら、”小さい頃からの夢”と”最近出来た目標”どちらを選びますか?」


 僕だったら、どちらかを信頼出来る人物に託す思いますが、今、彼女が求めているのはそういう回答ではないのでしょうね。


「エレオノール、本当にありがとう。あんなに昔の混乱していた僕の話を覚えていてくれて」


「兄様!」


「僕からの提案は、”最近出来た目標”を4年間頑張る。そしてその後、”小さい頃からの夢”を実現させるというのはどうかな?」


 僕の提案を聞くと、エレオノールが嬉しそうに飛びついて来ました。感極まったと言う感じです。いやあまり過激なスキンシップは理性が持たないんですけど。


「でも、何故4年間なんですか?」


 落ち着きを取り戻した、エレオノールがこんな事を聞いてきました。


「来年には、カトレアも魔法学院に入学して、その卒業後にエルネスト達も結婚だろ、その時に僕たちも一緒にやれば、目立たないかなと思ったんだよ」


「え? あの子、今年入学しましたよ? 何でも早くエルネスト様の役に立ちたいとかで」


 あれ?この間エルネストと会った時には、そんな事は言っていなかったと思うけど。


「エルネスト様には、内緒だったそうですよ?」


「君達姉妹は似たようなことをするんだね?」


「あの子が、今年入学できなければ、エルネスト様の診療所で看護婦でしたっけ?をするなんて、言い出すとは思いませんでしたから」


「すると、3年後には結婚なのかな?」


「多分そうなのでしょうね。でも大丈夫です、3年あれば何とか納得行く結果が出せると思います。ですから私たちも・・・」


「分かったよ。3年後を楽しみにしているよ! でも、ラ・ヴァリエール公爵家も寂しくなるね」


「両親とルイズだけですからね、使用人の皆さんは居るのですが、やっぱりルイズは寂しがるでしょうね。兄様も時間があれば、顔を出して下さいね」


 こうなりましたか、失敗したかも知れません。


エレオノールがルイズの魔法を見る

僕の気化爆発(ブリーブ)を思い出す

僕に相談がある

ルイズに魔法の指導


というプランが、難しい状態になったかも知れません。介入の機会は、あるようなので、とりあえず成り行きに任せる事にするしかない様です。


 しかし、我が家のジョゼットも同じ様な状況のはずなのですが、ジョゼットが寂しがっていると聞いた覚えがありません。僕が機会を見て家に顔を出していますし、あの家では全てが家族の様なものですし、何よりジョゼットには、テッサちゃんという友人が居るのが大きいのかも知れません。(ジョゼットが、ノリスの入学で寂しい思いをしたと言う話は聞きませんが、ノリスがジョゼットと離れるのを寂しがったと言う話は、家の色々な所から聞けた話なのですが…)


 ああ、忘れてはいけない話がありました。テッサちゃんと、その母親オルガさんの事です。オルガさんは実は未亡人だったのです、若くして夫を亡くし、路頭に迷う所に、運よく我が家の乳母の話が舞い込んだらしいです。そして幸運は、更にオルガさんの下に舞い込みました。

 所用で、我が家を訪れたガイヤール子爵という人が、オルガさんを見初めたのです。子爵も若くして奥方を亡くされたのですが、オルガさんに亡き奥方の面影を見たと言って熱心にオルガさんに結婚を申し込んだそうです。オルガさんも子爵の事を憎からず思った様で、先日目出度く式が行われました。

 問題はその後に起こりました。テッサちゃんは、別に新しい父親の事を嫌った訳では無いのですが、ジョゼットと引き離される事は断固として拒んだのです。強引に引き離した結果は、テッサちゃんが家出をしてまでレーネンベルクを目指した事もあり、已む無くレーネンベルクで行儀作法を習うと言う名目でテッサちゃんを引き取る事で何とか解決しました。(多分、ガイヤール子爵夫妻にとっても、良いことなのでしょうね)


 エレオノールと、少し(かなりかも)話し込んでしまいましたが、遅くなるといけないと言う事で、エレオノールはラ・ヴァリエール公爵家に向かう事になりました。泊まっていけば良いのにとも思いましたが、引き止める事はしませんでした。間違いがあって、エレオノールが研究に集中出来なくなっては、期限を設けた意味が無くなってしまいますからね。


 来た時とは全く異なる表情を浮かべて馬車に乗り込むエレオノールを、見送りましたが、僕はこの猶予期間がどの様な物になるのか、少し心配でした。


===


☆ローレンツさんの定期報告


 奇しくも、エレオノールが来た翌日、ワーンベルをローレンツさんが訪問してくれました。でも、一人でした。あれ?この間、学園に顔を出した時には、嬉しそうに”高等学校の有望な卒業生を紹介しますぞ!”とか言っていたはずなのですが。


「どうかなされたかな、ラスティン殿? ああ、彼らの事ですな、話しておかなくてはいけないこともあったので、町の食堂で待たせてありますぞ。やはり、気になりますかな?」


「ええ、まあ。話というのは、ガリアの件ですか?」


 こうして、ローレンツさんが例年通り、ガリアの状況を話してくれました。去年は確か鉱山の町が舞台だったはずです。わざわざ、ワーンベルまで使節が送られて来た位ですからね。


・ジョゼフ陣営

 去年は、以前の通りメイジを役人として雇用して、鉱山に送り込んだそうです。分析(アナライズ)を使用した鉱脈の発見方法や、固定化でのトンネル安定化の効果で、”ガリア一の鉱山”という事でかなり有名になったそうです。

 ここまで来ると、ガリアでも平民メイジの有用性が、公認されたと思って良いのかも知れません。


 ジョゼフ陣営には、若手の(と言っても30代だそうですが)貴族が少しずつ参加を希望しだしたそうです。ジョゼフ王子が、彼らをどのように活用するのか興味があったのですが、ジョゼフ王子は、彼らの財力や権力を一切求めなかったそうです。ただ、積極的に知恵を出す事を求めたそうです。

 ジョゼフ王子は、貴族たちに形の残る借りは残さないで、その上で、役に立つ貴族を選別しているのかも知れません。徐々に、ジョゼフ王子の真価が表れて来たようで、僕としては、頼もしい様な、怖い様な表現出来ない気分になります。


 そして、カグラさんはガリアの表舞台には、まだ出ていないのが確認出来ました。同盟者クロディーさんからの報告も問題無い様なので、こちらも成り行きを見守って行くしか無い様です。


・シャルル陣営

 こちらは、去年は散々だったそうです。財力と権力で、大量に採掘者を送り込んだまでは良かったのでしょうが、こんな事をやったらどうなるか、想像も出来ないのでしょうか?

 案の定、鉱山で大規模な事故が発生して、多くの死者を出すと共に、鉱山まで閉鎖されてしまったそうです。ここまで来ると、ガリアの大貴族たちは、シャルル王子を勝たせる気がないのでは無いかと疑いたくなります。ロベスピエール4世が何か工作でもしているのでしょうか?冷静に考えれば、この可能性は有り得ないと思えるのですが、それでも気にかかる所です。

 ワーンベルの代官をやっている身としては、ガリアで鉱山が1つ潰れて多くの採掘者が死んだというのは、喜ぶべきなのかもしれませんが、全く喜べませんでした。今までのシャルル陣営の動きは笑い話で済んだかもしれませんが、今回は人命がかかっているので、そんな訳にも行きません。

 話を聞かせてくれた、ローレンツさんもかなり不快そうでした。


 ローレンツさんによると次の舞台は、交易で栄えている町だそうです。ローレンツさんは”今回は引っ掛け問題ですかな?”という言葉を残して、紹介したい人物達を迎えに行ってしまいました。はて、引っ掛けですか、どういう意味なんでしょうね?


 新たに来た人物と言えば、魔法兵団の方でも少し変化がありました。魔法学院を卒業した、貴族の子弟が3人ほど、魔法兵団への入団を希望して来たのです。その3人は、いずれも”守護者”のメンバーだった学生でした。彼らにも色々事情があったのでしょうが、友人達と彼らの入団が、兵団の地位を押し上げてくれる気がします。


 しばらく色々な事を考え込んでいると、ローレンツさんが私室まで、呼びに来てくれました。おかしな話です、この辺りは、マルセルさんの仕事のはずなのです。少し不審を覚えながら、ローレンツさんと応接室に向かう事にしました。


=== 新登場人物一覧(五十八話) ===


五十八話までの新登場人物です。



* スティン・ド・マーニュ

ラスティンの偽名、マーニュ男爵家の3男(という設定)


* マーニュ男爵

スティン・ド・マーニュ(偽)の父親役で、ラスティンの兄弟子に当たる。

長男はアルビオンで外交官をして堅実な実績をあげ、次男がマーニュ男爵を継ぐことになりました。

この兄弟は、名前を設定していませんが、意外と出番がある予定です。


★魔法学園関係


* コラリー

魔法学院に勤めるメイドさん、一時期主人公に好意を寄せるが、思いを断ち切ることが出来た強い女性。

主人公による、セクハラ被害者です。


* エンマ

魔法学院のメイド達を取りまとめる女性。辛い過去がこの女性を大きく育てました。

数年後のコラリーは彼女の様になっているんでしょうね。


* オスマン

魔法学院の学院長。主人公親子二代にわたって苦労をさせられる人物です。

主人公の素性を見破った唯一の人物。主人公の経営する、魔法学園に経営が圧迫されるかも!?


* ブリュノ・ド・ゴドー

決闘騒ぎで、魔法学院から追い出された人物。伯爵家次男。

ただのやられ役に見えますが、ちょこちょこと出演させる予定です。(やられ役でですが)

とある重要な役目を果たす第1候補だったりします。


* ドミニク・バルザック

魔法学院教師で、ジャン・コルベールと並んで、主人公が恩師と考えている人物。


* デニス・ド・グラモン

主人公の魔法学院における後輩。主人公に決闘を挑み、好敵手と思われる。

元祖ナルシストだったりします。


* ギーシュ・ド・グラモン

原作キャラ、デニスの弟。


* グラモン伯爵

トリステイン陸軍の将軍。まだ元帥では無いです。



★友人関係


* エルネスト・ド・オーネシア

転生者で主人公の無二の親友。15歳にして、水のスクエアスペルを使う治療系の天才。

どちらかと言うと臨床治療を好むが、研究も怠らない。研究にはまると、マッドドクターの一面が

表に出てくる。

無事にカトレアと結婚して、次期ラ・ヴァリエール公爵となることは出来るのでしょうか?


* ガスパード・ド・コリニー

初期名:友人A

主人公の護衛を務める様になる。カロリーヌと恋仲になる予定です。

主人公の遠い親戚になります。


* セレナ・ド・ブランブル

初期名:友人C

メイジなのに、武器に詳しい女の子。とある人物の師匠になる予定です。


* カロリーヌ・ド・オーリック

初期名:友人D

水メイジであり、魔法薬に長ける。


* コルネリウス・フォン・ブラウンシュワイク (アルマント・フォン・リューネブルク)

初期名:友人B

暗殺の危険から逃れるために、トリステイン魔法学院に留学して来た。結果としてゲルマニアの皇位継承権を持つのは、彼ともう1人だけになってしまう。


* ウィリバルト・ゲオルグ・オットー・フォン・ブラウンシュワイク

コルネリウスの父親でゲルマニアのブラウンシュワイク公爵家の当主だった。毒殺されて既に故人。

同時にブラウンシュワイク公爵家は表向きは絶えた事になる。


* フリーデル・フォン・ブラウンシュワイク

コルネリウスの姉。ブロイッヒ家に嫁ぎ、皇位継承権を放棄する代わりに命を存える。



★使い魔関係


* キュベレー

主人公の使い魔。大地の精霊で、杖精霊のニルヴァーナを”お姉さま”と呼ぶ。大地の大精霊から分離して自我に目覚めたばかりで、色々問題を起こす事も。


* テティス

エルネストの使い魔。キュベレーと違い、既に自我に目覚めていたので、使い魔としては優秀。


* ステイ

エレオノールの使い魔。地中を泳ぎまわり、風石を集める。エレオノールの研究に貢献する。


* 大地の大精霊

うっかり主人公が殺されそうになった時の、殺人未遂犯。

主人格が女性の為、大地のお母様とも呼ばれる。

分離する前のキュベレーは、彼女の一部です。


* 引きこもり

紹介になっていませんが、大地の大精霊に干渉出来る存在。

結構、地味に話の根本に関わっていたりします。



★ガリア関係


* バルドー子爵

ガリアの下級貴族。王位継承争いのジョゼフ王子の勝利を予言して、ジョゼフ王子に登用される。


* カグラ・ミナモト(源 神楽)

ジョゼフ王子の使い魔。豊かな黒髪と、保護欲を刺激する小さく華奢な身体つきです。

東方の”根の国”の神社の巫女さんでした。原作のシェフィールドとは別人のつもりです。

主人公の助言でミョズニトニルンの力に覚醒する。


* セザール

商人ローレンツの娘婿。何故かガリアのジョゼフ王子に気に入られる。



★その他


* ラザール

レーネンベルク家の執事(見習い)

リッチモンドが直々に、公立学校まで赴いて、見つけて来た少年。リッチモンドの死後は彼に代わって、レーネンベルク家の屋敷の一切を取り仕切る。

ツェルプストー家のキュルケと結婚させる予定だったりして。


* モーランド侯爵

トリステイン貴族で、レーネンベルクの北西に隣接して、ゲルマニア国境を接する土地の領主。

結構重要な役割なのに、紹介を忘れられた、不遇の人。


* クレマン

モーランド侯爵家の家臣。主人公をモーランド侯爵領に招待しようとするが、盗賊団の襲撃で殺される。

メイジだがその腕はイマイチ、家臣としての能力もイマイチ。

捨て駒にされた、不幸な人です。


* クリシャルナ

謎の老婆、ではなくエルフの少女。かなりの美少女で、主人公にはフレンドリーエルフと思われている。

エルフの里の1つ、レイハム出身。250歳だが、レイハムのエルフは特に長寿で人間換算すると、10?12歳だったりします。

演劇の勉強をしたので、他人を演じられる様になった。

事情があって。なかなか活躍しないのが、悩みの種。四角形の頂点の1つ?


* アイラール

クリシャルナの愛馬のペガサス。ピンチには元の姿に戻って、空を翔る。


* ミネット

転生者で、ホラント商会の会長の娘。心労がたたらず禿げないコルベールと結ばれちゃう?

発明家の記憶を使って、ゼロ戦の複製と操縦法の教育に励む。


* ガイヤール子爵

レーネンベルク家の”娘”ジョゼットの乳母のオルガを、後添いに迎える。

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