知らない方がいいと思うよ

 僕が薬を届ける部屋に、女の子がいる。おさげにした髪が白っぽい、でも見目はまだ十代くらいの。簡素な服から伸びる手足が棒切れみたいに細くて、全然笑わない。薬をテーブルに置くと、部屋の隅で機械的に頭を下げて、「どうも」とかすれた声で言う。

「あの子は誰なんですか?」

 気になったので、先生に訊いてみた。定期的に届ける薬も、なんの薬なのか知らなかった。

「知らない方がいいと思うよ」

 先生は言った。僕は首を傾げる。

「どうしてです」

「知っちゃったら、情がわくでしょ」

 先生は一秒だけうっすら笑った。

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