俗っぽくなっちゃったな

 その子の耳にはピアスがキラキラ光っていた。少し首を傾ける度に、刃物のように閃く。

 観察していることに気づかれないように、早めに目をそらした。持っている本に目を落とす。古本だから、日焼けしている上にページの端が折れている。あの子に比べてこの本は、というか自分はあんまり綺麗じゃないな、と認識してかすかに嫌悪感をおぼえた。

「それってなんの本ですか?」

 矢庭に、左側から声をかけられた。思わずびくっとしながら顔を上げると、ピアスがキラキラと光っていた。その子は一回にっこりと笑うと、すとんと椅子に腰を下ろした。いきなり隣に座られて、こちらとしては戸惑っていた。

 いや、それよりも。

 そんな風に「にこにこ」しないで欲しかった。

 さっきひとりでいた時、あなたはあんなに綺麗だったのに。

 俗っぽくなっちゃったな、と独り言ちた。

「小説とかですか」その子は本を覗こうとする。「私、本が大好きなんですよ」

「暇なんですか?」

「ええ、暇なんです」その子は愛想よく微笑んで頷いた。「だから、お話しましょう」

「…………」

 黙って、自分の持っていた本をその子に手渡す。その子はちょっと首を傾げたが、会釈をして本を受け取った。ぱらぱらとめくり「ミステリですね」と楽しそうにした。

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