前から綺麗だと思っていたんだ
恩返しがしたいのだけれど、と雉笛は言った。雉笛は真面目だから、そういうことを言い出すだろうな、となんとなく予測していた。
「要らんよそんなもの」
僕が遠慮してみせると、雉笛は悲愴な顔つきをした。ママとはぐれた子供みたいな、今にも泣き出しそうな、なっさけない表情だった。
「でも、でも」雉笛は本当に涙を浮かべた。「あなたが助けてくれなかったら、私は死んでいたのかも知れないんですよ」
「大袈裟な」
僕はただ、ボンヤリして赤信号を渡ろうとしていた雉笛を引き止めただけである。確かにあのまま渡っていたら、ひょっとしたら、運が悪かったら車に轢かれて死んでいたかも知れない。だから引き止めたわけだし。しかし、恩返しをされるようなことではない、と僕は思う。
「何か欲しいものはないですか」雉笛は訊ねてきた。
「ないけど」
「そう言わずに……」雉笛は両手をきつく握り合わせて、拝むようなポーズを取る。「なにかないですか……」
「じゃあ、その髪が欲しい」
「髪?」
「前から綺麗だと思っていたんだ」
僕は雉笛の、琥珀色の髪を指差した。
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