盗んで返して

「これ」と申し訳なさそうに、友人はピアスを差し出した。失くしたと思っていた、私の三角のピアスだった。私は戸惑い、彼女の目をじっと見返した。

「盗んだの」

 友人は歪んだ微笑みを浮かべた。泣き出しそうにも見えたし、怒っているようにも見えた。私が呆然としたまま「どうして」と呟くと、いきなり頰をはたかれた。友人はヒステリックな調子で、しかし囁くように怒鳴った。

「返すって言ってるでしょう。受け取りなさいよ」

「ごめん」

 私は謝って、それからピアスを受け取った。破損等はしていない。彼女はピアスを大切に扱ってくれていたようだ。一度失くしたと思っていたものが、自分の手のなかに戻ってきたことが嬉しく、私はつい顔を綻ばせた。

「何を笑っているのよ」友人がそれを見咎めて、アカラサマに眉をしかめた。

「ごめん」私はにやにやしながら言った。「……これ大事にしてたものなの、戻ってきたのが嬉しくって」

「…………」

 友人は自分の、耳の後ろの辺りをつよく引っ掻いた。不愉快そうに。まるでそこに虫でもいるみたいに。彼女はなにごとかをボソッと呟いていたが、私には聞き取れなかった。

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