火を見たいじゃん

「木が燃える処が見たくない?」

「見たくねえよ」

 僕は即答した。生渋は口を曲げて不満そうにしたが、すぐに軽やかに笑う。

「じゃあ枝でいいよ。枝で。枝を集めて燃やそう。火を見たいでしょ?」

「見たくねえよ」

「遠慮しないで」

 わけの判らないことを言って、生渋は僕の袖を引っ張った。袖が伸びるのが嫌で、つい引っ張られるまま進んでしまう。誰かに会話を聞かれなかっただろうか、と心配になって、辺りを見回した。生渋の不謹慎な言動の所為で、僕まで叱られたら堪らない。

 裏庭に出た生渋は、さっそく枝を拾い集め始めた。「手伝ってよ」と生渋に呼びかけられた僕は、かぶりを振った。

「燃えないと思う」僕は言った。「昨日、雨が降っただろ」

「それが何?」

「みんな湿ってるよ。どうせ火はつかないよ」

「やってみなくちゃ判らないじゃん」生渋は明るく、楽しそうに体を弾ませる。「チャレンジ、チャレンジ」

 僕は嘆息する。こいつには、何を言っても無駄なんだよな。何を言っても無駄なら、何も言わない方がいいな。エネルギーは大切にしないといけない。有限なんだから。

 生渋は枝を拾い集め、一箇所に集めて小さな山を作った。その傍に屈み、ポケットからライターを取り出す。どうしてそんなものを持っているんだ。

「つけるよ!」

 心底楽しそうに笑い、生渋は枝にライターを近づけた。

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