下等な冗談

「どうしてそんな汚い言葉を遣うの?」

 先生にそう質問されて、チルは少しおどけるように唇を曲げた。考えるように、目を逸らした。

「うん、汚い言葉を遣うと、みんなが笑うんだ。みんなが笑うのが好きというか、嬉しいから、汚い言葉を遣うんだ」

「もう遣っちゃダメだよ、って先生が言ったら、チルは汚い言葉を遣うのをやめてくれる?」

「判んない。みんなを笑わせたくて、また遣ってしまうかも知れない」

「みんなは別に、下品なことだけで笑うわけではないでしょう?」

「うん。でも、そういう上等な冗談はそうそう思いつかないの」

「そう」

 先生は腕組みをした。チルは沈黙がつらくなって、意味もなく足をぶらぶらとさせた。きょろきょろと辺りを見回して、なにか面白いものがないか捜している。

「ねぇチル、先生はね、本当に面白い人は、下品なことは言わないと思うんだ」

「うんわかるよ。頭がいいんでしょう」

「そうよ。だからチルももっとたくさん本を読んだり、勉強してみたらどうかしら。そしたら汚い言葉を遣わなくても、みんなを笑わせられるようになるんじゃないかしら」

「うんそうだね。そうしてみるよ、先生」

 その日の説教はそれで終わったのだけど、チルはやっぱり、その後も汚い言葉を時々遣ってしまった。先生と話したことは覚えているのだけれど、つい、遣ってしまうのだ。チルがやったことは、汚い言葉や下品なことで笑いをとる時は、先生に見つからないようにすることだけだった。

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